神奈川工科大学 工学部 電気電子情報工学科 教授の小室貴紀氏
神奈川工科大学 工学部 電気電子情報工学科 教授の小室貴紀氏
[画像のクリックで拡大表示]

 電気的な現象は、人間の五感では直接捉えることができない。設計・製作した回路が正しく動作しているかどうかは、測定器による評価によって初めて把握できる。測定器を正しく使えなければ、設計した通りに回路が動いているのかを把握できないし、回路内で問題が生じていたとしても状況を把握できない。見方を変えると、測定器の実力を出し切れる技量があれば、回路設計や問題解決の効率が上がる。

 今回、「技術者塾」のアナログ技術連続講座では、デジタル・マルチメーター、オシロスコープ、ネットワーク・アナライザーといった測定器を効果的に用いる勘所を学べる「電子計測入門(基本測定器編)」(2015年9月1日開催、詳細はこちら)および「電子計測入門(実践計測編)」(2015年9月8日開催、詳細はこちら)を企画した。これらの講座で講師を務める小室貴紀氏(神奈川工科大学 工学部 電気電子情報工学科 教授)に、測定器の実力を出し切る要点を聞いた。(聞き手は日経BP社 電子・機械局 教育事業部)

――テスター、デジタル・マルチメーター、電源、発振器、オシロスコープといった基本的な測定器の使い方を正しく理解しておくと、どのような利点がありますか。

小室氏 私自身は測定器の正しい使い方を理解することは、当たり前すぎて、どんな利点があるのか疑問に感じたことはありません。

 電子的な現象は人間の五感で直接捉えることができません。そこで測定器を使って何が起こっているのかを把握するわけです。うまくいっているにしろ、問題が起きているにしろ、状況を把握できなければ何も話は始まらないのですから、少なくともハードウエアを扱う限り、正しく測定を行うことの利点は改めて議論するような話ではないと考えています。

 一方、この講座に参加される大半の技術者にとっては、電子回路で何かを実現することが目的でしょう。つまり、測定はあくまで途中経過を知る手段であり、それ自体は最終的な目的ではないため、軽視する傾向がありそうです。また学生時代に、電子回路の測定を専門的に学んできている技術者は、少数派と言えるかもしれません。ですからこの機会に、改めて電子回路の測定について一通りのことを学んでみることは無駄ではないと思います。

 一例を挙げてみましょう。
 私は大学で学生が行う実験の面倒を見ています。多くの学生は、正解、先生が想定している正解を出してレポートを仕上げることにとらわれがちなのですが、現実にはうまくいかないことも多々あります。 実験で使用する測定器、例えばデジタルテスターから予想と異なる値が観測されたときに、学生にありがちな反応は「値が変です」というものです。この場合、測定器の示す値を「見て」話をしているのですが、私が期待していることは、測定器を「使って」おかしな現象が起きている原因を特定して対応することです。

 社会に出た後、例えば新製品開発の局面では、うまくいくことの方が稀です。そのときに測定器とそれを使いこなす技術が無ければ、どうすれば良いのか、私には見当もつきません。