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テクノ大喜利

「性格の不一致」による破綻の危険は、少なからずある

【半導体大型M&A、広がる波紋のかたち】湯之上 隆氏

  • 2015/07/17 00:00
  • 1/3ページ

 半導体業界で業界を震撼させる大型M&Aが次々とまとまっている。テクノ大喜利では、こうした業界の形を変えるM&Aによって、半導体業界内の各社が新たに得た機会と抱えたリスクを考え、半導体業界のこれから姿を読む視点の発掘を目指した。今回の回答者は、微細加工研究所の湯之上 隆氏である。

湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上隆(ゆのがみ たかし) 日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。

【質問1】Intel社によるAltera社の買収、Avago社によるBroadcom社の買収。それぞれが新たに得た機会と新たに抱えた危機は何だと思われますか?
【回答】 IoT時代の覇権を取る機会を得たが、同時に空中分解する危機もある

【質問2】大型M&Aが立て続けに起きた結果、現在動いていない半導体メジャーが新たに得た機会と新たに抱えた危機は何だと思われますか?
【回答】大型M&Aが、失敗すれば漁夫の利を得ることができるが、成功すれば事業機会を失う

【質問3】世界の大きな業界再編の動きによって、日本の半導体メーカーが得た新たな機会と、新たに抱えた危機は何だと思われますか?
【回答】買収されることによって存続する機会が生まれ、何もしないことによって世界から取り残される危機が生じた

【質問1の回答】IoT時代の覇権を取る機会を得たが、同時に空中分解する危機もある

 2015年6月14~19日に、京都で開催されたVLSIシンポジウムのTechnology分野に、プレスとしてフルに参加した。そこで私が感じ取った半導体産業の動向は以下の通りである。

(1)IoTとビッグデータが牽引して世界半導体市場は今後も成長する。
(2)微細化は今後も続く。7nmはできる、5nmもたぶんできる、3nmは現時点では難しい。
(3)自動運転化するクルマがIoTデバイスになる。

 2015年に入って立て続けに起きた大型M&Aは、上記の動向の中で起きたものと考えると理解しやすい。Intel社によるAltera社の買収は、「IoTとビッグデータ」時代の到来で増加するデータセンター用FPGA、および自動運転車用のマイコンがターゲットである。Avago社によるBroadcom社の買収は、ARM社が2025年には1000億個を超えると予想しているネット接続デバイス用の通信半導体の制覇を目論んでいると思われる。その他、Infineon Technologies社による米International Rectifierの買収、および、蘭NXP Semiconductorsと米Freescale Semiconductorの合併は、IoTデバイス化が進むクルマ用半導体が狙いであろう。

 このような大型M&Aは、うまくいけば狙った分野の覇権を取ることができるだろう。しかし、途中で空中分解し、買収した方もされた方も大きな損害を被る危険も同時にはらんでいる。空中分解する理由はさまざまであるが、両社の企業文化の相違が致命的になる場合が多い。

Altera社は、激烈な「インテルカルチャー」に馴染めるか


 特に、「インテルカルチャー」と呼ばれる独特の企業文化があるIntel社は、空中分解する危険が大きい。その「インテルカルチャー」を生み出したのは、DRAMから撤退し、パソコン用プロセッサーへと舵を切って、Intel社を売上高世界一の半導体メーカーに成長させた3代目CEOのAndrew S. Grove氏である。

 Grove氏のマネージメントを象徴するのは、「偏執狂(パラノイア)のみが生き残る」という言葉であろう。Grove氏はIntel社が進むべき戦略ベクトルを指し示し、すべての社員のエネルギーを徹底的に収束させようとした。そしてGrove氏は、恐怖政治により強烈な中央集権制度を作り上げた。COOには(4代目CEOになる)Craig Barrett氏を起用し、彼の役割を“ミスター・インサイド”と表現して、Grove氏の戦略を完璧に遂行させた。社内のすべての報告がGrove氏とBarrett氏に上げられ、決定事項のすべてをこの2人が決定した。こうして、Grove氏が一切の容赦なくパソコン用プロセッサーへと戦略を集中した結果、Intel社は巨大な成長を遂げた。そして、今もなお、継承され続けている「インテルカルチャー」が社内に深く根付くことになった。

 しかし、パソコンに集中し、プロセッサーで成功すればするほど、Intel社の戦略は硬直化した。Intel社内では新しいアイデアが生み出され続けたが、それが何一つ事業化されることはなかったからだ。

 1998年にGrove氏がCEOを退任し、Grove氏の忠実なCOOだったBarrett氏が4代目CEOになると、「インテルカルチャー」の弊害はよりひどくなった。世の中にはインターネットや携帯電話が普及し始めていた。Barrett氏は、多数の企業買収により、パソコン用プロセッサー企業から携帯電話やインターネット関連企業へ転換を図ろうとした。しかし、買収した企業の幹部のほとんどが「インテルカルチャー」に馴染めず、早々に辞めていったという。また、Intel社内は大混乱に陥った。

「インテルカルチャー」が新規事業の育成を阻んだ


 ITバブルの崩壊という不運もあったが、Barrett氏の新規事業の試みはすべて失敗に終わった。その根底には、Grove氏が築き上げた「インテルカルチャー」の存在があった。

 東芝出身で現在スタンフォード大学に在籍している西義雄教授は、次のようにコメントしている。「Intel社がセルラー市場に参入し損ねていた2000年当時、私はTexas Instruments(TI)社のR&D総責任者をしていたが、Intel社がTI社と同じセルラーの土俵に上がってくることができる可能性はゼロと判断したのを覚えている。Intel社の責任者とは親しかったが、彼が「インテルカルチャー」の中でいかに苦労していたかということを知っている」。

 Intel社は、携帯電話の後も、スマホ用プロセッサーの参入にも失敗し続けており、年間4000億円を超える赤字を垂れ流している。このように、「インテルカルチャー」があるが故に、Intel社は、新規事業やM&Aに失敗の歴史を積み重ねてきた。したがって、Intel社によるAltera社の買収の行方がどうなるかは予断を許さない。

 また、Avago社によるBroadcom社の買収については、両社の企業文化を知らないのでコメントできないが、「性格の不一致」による破綻の危険は、少なからずあるだろう。

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