中学校の社会の時間に、先生が言った言葉を今でもはっきり覚えている。

「日本は世界一技術力の高い国で、外国から材料を輸入し、それを加工して海外に売ることで、お金をもうけているのです。外国ではメード・イン・ジャパンと言うだけで信頼されるし、米国人がやきもちを焼いて不買運動を起こしたりしているのです」

 教科書には、日本製のラジカセをハンマーでたたき壊す米国人労働者の写真が掲載されていた。当時、技術やら外国やらというものが遠い別世界の話でしかなかった私も、何となく日本ってすごいのか、という得意げな気持ちになったことを覚えている。

自前主義へのこだわりが、逆に効率を落とす

 あれから30年近くたった今、日本のものづくりは窮地に立たされている。IT(情報技術)化やグローバル化の波に乗り遅れる間に、韓国・中国の台頭を許し、工場を海外に移転することによる空洞化、IT技術を使った新興企業の出現、相次ぐリコールや不祥事が起こるなど、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら、日本のものづくりの良さが失われつつあると感じている。

 中でも、これまで日本の特徴とされていた自前主義が限界にきているということが一因として挙げられるのではないだろうか。高い技術力を持つようになったが故に、自分たちが保有する技術の中で製品開発することにこだわり、結果として効率が落ちているという状況が各所にみられる。

 もちろんメーカーである以上、自分たちの技術だけで製品化ができればそれに越したことはないが、世の中のニーズがそれを許さなくなってきている。自前にこだわって、開発に時間を要するよりは、必要に応じて社外の技術をうまく使い、スピードを最優先するという考え方にシフトしつつあるのだ。顧客にとっては、いち早く製品が届くことが重要であり、それを1社で実現しようが社外の技術を使おうが関係はない。他社よりも先に顧客のニーズに応えることが、競争を勝ち抜く重要なカギになっているのである。

 スピーディーな開発は、国内外問わず、グローバル競争を勝ち抜くためにメーカーに課せられた最も重要なミッションである。そんな中で、研究開発を加速する方法の一つとして、「オープンイノベーション」という考え方が2000年以降、欧米を中心に急拡大している。

 日本でも、特にリーマンショックを境にして研究開発の効率化の必要性が認識され、オープンイノベーションという言葉が広く使われるようになってきた。今では、多くのメーカーの研究開発戦略の中に、この言葉が見られるようになったし、「オープンイノベーション推進部」のように活動を推進する部門の名称にオープンイノベーションを冠するケースもだいぶ増えてきている。

 ただ、国内では、オープンという流行の言葉にイノベーションを組み合わせたこの言葉のあいまいさもあり、必ずしも正しく理解されずに言葉だけが独り歩きしていることは否めない。そのために生じがちな誤解を払拭するために、今年2月に『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社)という本を上梓した。

 オープンイノベーションとは、ものづくり企業(いわゆるメーカー)が、ものづくりに関してイチから10まで自分たちだけで行う、いわゆる自前主義とは異なり、必要に応じて社外の知見を有効活用して、研究開発を加速する、あるいは新しい価値を創造する活動である。