前編に引き続き、「センシングデータビジネスにおける、ビジネスモデルの課題」というテーマで、この課題に長年取り組んできた日立製作所研究開発グループ技師長の矢野和男氏に話を伺います。前編では、膨大なセンシングデータを金の卵に変えることの難しさについて聞きました。後編では、データを扱うことの倫理観と同社のデータビジネスの展望を聞きます。

日立製作所研究開発グループ技師長の矢野和男氏
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――従業員の行動のセンシングデータを活用して企業の業績を高める「ヒューマンビッグデータ」プロジェクトでは、従業員一人ひとりが日常的にセンサーを装着することが前提となります。センシングされることに対して、従業員の方々から抵抗があったのではないでしょうか。

矢野 そうですね。抵抗はありました。長年の経験を踏まえて、我々は人のデータを取るときに気を付けていることがあります。それは、とにかく「目的をはっきりさせる」ことです。本人にとってもきちんとメリットがあるということが重要で、目的についても部門長から従業員の方々に説明してもらいます。本人にも、データを分析した結果のフィードバックという形で付加価値を提供したいと思っています。

――例えば、著書『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)では、休憩時間に従業員同士の会話が活発になると業績が上がるという話がありました。それは、従業員に「もっと積極的に社内の人と交流をすることで、さらに業績が上がりますよ」というようなフィードバックをするのでしょうか。

矢野 そうですね。例えば、コールセンターの場合、スーパーバイザーがどういう人たちに声掛けするかということが、休憩時間の活発度や、ひいては業績に大きなインパクトを及ぼします。従って、スーパーバイザーに対して、「この従業員に優先的に声掛けした方が良い」ということを提示するアプリケーションも提供しています。