「モノのインターネット」と呼ばれるIoT(Internet of Things)。その発展により、インターネットにつながるセンサーが増え、世の中には膨大な「センシングビッグデータ」が生まれています。

 ところが、ビッグデータという言葉が定着し、データの価値が注目される一方、その利用方法に頭を悩ませている方も多いでしょう。データは金の卵でありますが、単にデータを持っていても1円にもなりません。いかにうまく活用するかによって、データの価値は何倍も何百倍も違ってくるのです。

 今回紹介する日立製作所のプロジェクトは、「モノ」のセンシングだけではなく「人」をセンシングして人の行動をビッグデータにしました。そして、そのデータからいかに金の卵を生ませるか、この「センシングデータビジネスにおける、ビジネスモデルの課題」に長年取り組んできた日立製作所研究開発グループ技師長の矢野和男氏に話を伺います。

日立製作所研究開発グループ技師長の矢野和男氏
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――従業員の行動のセンシングデータを活用して、企業の業績を向上させる「ヒューマンビッグデータ」というプロジェクトは、課題も解決策もなかなか見えにくい分野である上に、人を対象にしているという点でも、非常に先進的な取り組みだと思っています。このプロジェクトを始めてから現在に至るまでの話を聞かせてください。

矢野 我々はビッグデータに関連したさまざまな活動を手掛けています。ヒューマンビッグデータは、その入り口の一つです。従来、自動車や産業用機器などではたくさんのセンサーが使われてきました。最近ではスマートフォンにも多くのセンサーが使われていますが、それもここ数年のことです。

 ヒューマンビッグデータは、10年以上前に始まったプロジェクトです。かつて日立製作所には、半導体の研究者が多数いました。私自身も20年半導体と関わっていました。10年ほど前、日立製作所が半導体ビジネスから撤退することになり、新しいことをしなければいけないと考え、議論を始めました。

 そうして得られた結論は、「データが重要になるだろう」ということ、そしてさまざまなコンピューターがこれまで以上に小さくなり、しかも身に着けるようなものができるだろうということでした。そこで、産業用のセンサーネットワークでデータを収集することと、ウエアラブルなツールで人のデータを収集することを始めました。それなりに大きなプロジェクトとして、2004年に本格的にスタートしたのです。