東北大学 大学院工学研究科 バイオロボティクス専攻 教授の田中秀治氏
東北大学 大学院工学研究科 バイオロボティクス専攻 教授の田中秀治氏
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 「MEMS(微小電子機械システム)」への注目度が高まっている。自動運転やIoT(Internet of Things、もののインターネット)、人工知能やディープラーニングといった、現在ホットな技術分野の実用化に伴い、MEMS技術で造るセンサーの需要が増すと予測されているからだ。米国では2023年までに1兆個ものセンサーを使用する社会を目指す「Trillion Sensors」というキャンペーンもスタートした。こうした需要予測に加えて、技術的な進化も加速している。

 「技術者塾」において「車載センサーやIoTデバイスに革新をもたらすMEMS技術」の講座を持つ、東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻教授の田中秀治氏に、今MEMS技術を押さえるべき理由や、同技術の可能性などについて聞いた。(聞き手は近岡 裕)


──MEMS技術は今、なぜ求められているのでしょうか。

田中氏:スマートフォンやゲーム機器を見れば分かる通り、今、製品の価値を決めているのは、必ずしも演算能力ではありません。現在の製品は、ユーザー・インターフェースが付加価値のかなりの部分を占めており、それを支えるセンサーの役割が極めて重要です。

 健康志向の高まりから現在、さまざまなセンサーが搭載されたリストバンド型・腕時計型の情報機器を使い、自らの活動量を把握して健康維持や体調管理に利用している人が先進国を中心に増えています。自動車では目下(もっか)、環境性能と安全性能が最も重要な付加価値となっています。燃費向上はセンサーによる高度な制御によるところが大きい。エアバッグやアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)、高度な車体制御といった安全性能もセンサーに大きく依存しています。実は、こうしたセンサーの多くがMEMS技術で造られているのです。MEMSを使わずに生活している人はほとんどいないと言っても過言ではありません。

 そのため、MEMSを使いこなすことは、今後、ますます重要になります。すると、MEMSのユーザー、すなわち、アプリケーションの開発者は、MEMSメーカーと話をする機会が増えていくことでしょう。その際に、MEMS技術を把握している方が、製品開発をスムーズに進められます。

 MEMSの性能は、MEMSの機構や構造、材料だけではなく、ASIC(アプリケーション向け集積回路)によるところが大きい。そのため、回路設計者やLSI技術者にとってもMEMSとの接点は一層重要になると思います。特に、今後はMEMSとASICの集積化が進むと思われ(関連記事)、回路設計とプロセスの両方の観点で、LSIメーカーにはMEMS技術の素養が求められるようになります。

 このように、MEMS技術を学ぶべき人は、MEMSに直接関わる技術者や研究者だけではなくなってきているのです。


──MEMS技術が今後ますます必要となる背景には何があるのですか。

田中氏:技術革新が進み、製品をインターネットで結ぶ技術であるIoTへの期待が膨らんでいます。IoTを実用化するには、さまざまな情報を取得するためにセンサーが必要で、そのセンサーの多くがMEMS技術で造られています。従って、IoTが普及すれば、その分、MEMSの数も増えることになります。事実、2023年までに1兆個のセンサーが使われる社会を目指す「Trillion Sensors」というキャンペーンが米国を中心に盛んに行われています。

 加えて、今、人工知能やディープラーニングの研究がブームを見せています。ここにもMEMS技術の潜在的な需要があります。人工知能やディープラーニングをハードウエア側から後押ししているのが、高度化されたFPGA(Field Programmable Gate Array、注:ユーザーがプログラミングすることで1個から造れるデジタルLSIの一種)です。これにより、音声認識がさまざまな機器で利用できるようになると考えられます。自動翻訳によって言語の壁が低くなるのも遠い未来ではないかもしれません。このとき、音声の取り込みに使われるのがMEMSマイクロフォンです。音声認識では、ハンドセット(受話器)を持って行う電話の会話とは異なり、マイクロフォンに2倍以上の高性能が求められます。

 自動車分野では自動運転の研究開発が進み、今後、段階的に実用化が進んでいくと思われます。自動運転には、さまざまなセンサーが必要となりますから、必然的にMEMSの需要が増えていくことでしょう。一例を挙げると、自動運転には従来よりも桁違いに高性能な角速度センサー(ジャイロセンサー)が必要です。こうした高性能ジャイロセンサーはロボットやドローン(無人航空機)にも使われます。自動車や民生用ロボットに数百万円もする高額なリング・レーザー・ジャイロを使うことはできないため、現在よりも桁違いに高性能化されたMEMSジャイロが必要になるはずです。