組み込みシステムを開発している会社からは、数年前の就職難と言われていた時期でも「新卒募集も中途募集も人が来ない」という声が聞こえていた。なぜ「就職難」なのに「人が来ない」のだろうか?

 組み込みシステム業界は、家電や自動車をはじめ、日本が得意としている幅広い産業分野を支えている。しかし、業界では「人材不足」の声が途切れた記憶がない。「もしかしたら、何か認識が間違っているのではないか」という思いから、組込みシステム技術協会(JASA)の研修委員会では、「新入社員に求める組込み技術知識と人物像」という調査を毎年行っている。

「人材不足」の声は何が原因なのか?

 実際の現場で技術者に要求されるスキルについては、人材会社や各省庁から幾つかの情報が出ている。また技術者がスキルを向上できるように、各種研修やセミナーも至るところで開かれている。すでに業界で働いているエンジニアであれば、これらの情報を参考に自己のスキルアップを行い、「より良い人材」を目指すことが可能だ。しかし、調査を開始する前に確認したところ、新入社員に限定した「要求されるスキル」などについては、それらしい情報が見当たらなかった。これはまずいのではないか。そもそも若い人に業界を目指してもらうには、弁護士でいえば法律関係の知識、整備士であればスパナをはじめとした工具の使い方、アイドルなら歌やダンスといった、最低限身につけておくべき知識やスキルを明確にしておく必要があるはずだ。

 研修委員会では、組み込みシステム業界の各社を対象に「新入社員に要求されるスキルの種類」を調査している。また各社が新入社員研修の方向性を検討する材料として、教育機関には注力した方がよい教科を検討する際の資料として使用してもらえるよう、毎年アンケートを実施している。このアンケートで「人材不足」の声の原因を明確にできれば、組み込みシステム業界が今後対応した方がよい項目を検討する材料になり、業界で活躍したいと考えている人には努力すべき目標を示すこともできると考えている。