この1年ほど、人工知能が将来何をもたらすかについて世界中で議論が巻き起こっています。人類に巨大な益をもたらすとされる一方で、人間の仕事が奪われ、さらには人間による制御が効かなくなる落とし穴にはまる可能性もさかんに議論されています(関連エディターズノート)。

 人工知能の行方を懸念する人の中には、著名な研究者や経営者も少なくありません。「ホーキング、宇宙を語る」などの著書で一般にも知られる物理学者のStephen Hawking氏は2014年12月に「人工知能は人類を終わらせかねない」と警鐘を鳴らしたと報道されています。

 米Tesla Motors社 Chairman&CEOのElon Musk氏も2014年8月、「人工知能の研究には最大の注意を払う必要がある。潜在的には、核兵器よりも危険な存在になり得る」と自身のTwitterで発言しています。

「人工知能の研究に関するガイドライン」に多数が賛同

 そして、Musk氏とHawking氏などは2015年1月に、「Research priorities for robust and beneficial artificial intelligence(堅牢で有益な人工知能のための研究の優先順位)」というタイトルの公開意見書を発表しました。

 これは、人工知能の研究に反対する意見書ではなく、研究の方向性を間違わないようにするためのガイドラインだといえます。ここでいう「堅牢」とは、人工知能は人間が望むことだけをこなし、常に人間のコントロール下にあることが保証されていることを意味します。Isaac Asimov氏のロボット3原則の人工知能版、それもSFではなく、リアルな研究開発の原則といえるかもしれません。ただ、原則は3つではないようです。

 現在でも賛同者を募っており、現時点で6800人超の研究者や技術者、学生などの署名を集めています。人工知能研究の最前線で活躍する研究者の署名も多く、2000年代半ばまで停滞していたニューラルネットワークの研究を一気に前進させたカナダUniversity of Toronto Professorで米Google社の研究員でもあるGeoffrey Hinton氏も署名しています。Google社の研究者60人以上、米IBM社のコグニティブコンピューター「Watson」の開発関係者も30人近くが賛同しています。日本からは例えば、ドワンゴ 人工知能研究所 所長の山川宏氏が署名リストに名を連ねています。