ソフトバンクがかつてない転換点を迎えている。

 孫正義社長は2015年5月の決算会見で「これまでメーンが国内、海外がサブだった。これからはグローバルな会社になる」と宣言した。

 「ソフトバンクは第二のステージに入った」とも語ったが、これらの言葉自体はどの企業経営者でも用いる言葉だ。ただ、同社の場合は一般的な日本企業の海外展開とは意味が違う。通常は国内で一定の成功を収めた上で、海外に製品の販路を広げ、グローバルに展開する流れが多い。

 だがソフトバンクは2012年に米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを2兆円近い金額で買収することを発表し、突如として海外事業に軸足を移した。さらに出資する中国の電子商取引(EC)最大手のアリババ集団の上場で、8兆円近い含み益を手にした。孫社長が海外企業の「爆買い」モードに入っている。

 徐々にグローバル企業に変貌を遂げるのではなく、蛹が蝶になるようにM&A(合併・買収)によって突然、グローバル企業になったのだ。それに合わせてこの2~3年は、孫社長の経営がフルモデルチェンジした時期に当たる。

 また、様々な課題が見えてきた時期でもある。スプリントは経営再建の道筋が見えず、国内事業も成長が鈍化している。またロボットやエネルギーなどに業容を広げ過ぎだとの批判もある。

 その最中に筆者は、孫正義社長へのインタビューを繰り返し、経営の実態に迫った。

 米国事業の展望と誤算、国内事業の位置づけ、エネルギーやロボット事業の未来について大いに語ってもらった。

 印象的だったのは、取材を重ねるにつれ、孫社長の言葉が先鋭化していった点だ。「俺はちっぽけだ」などと自身を鼓舞する言葉が増えていき、まるで焦っているようにも見えた。

 希代の経営者は何を目指し、何を目指しているのか。

 孫社長の経営に正面から向き合い、その集大成として『孫正義の焦燥 俺はまだ100分の1も成し遂げていない』を6月22日に刊行(アマゾンでは6月16日発売)する。

 孫社長は5月の決算会見で元グーグル上級副社長のニケシュ・アローラ氏を「最も重要な後継者候補」と明言した。これで決まりなのか。日経ビジネスオンライン連載の第一回目は、後継者問題を取り上げたい。