日本の製造業はその高い品質により戦後から成長を続け、その版図を世界にまで広げてきた。しかし近年、品質や技術では高いレベルを持つはずの日本企業の苦戦が続いている。製品レベルや技術では決して負けていないはず、しかし事業としては負けてしまう…。その状況に対し、いま、顧客の求める「本質的な価値」「未来の価値」を探り、事業に活かす取り組みが始められている。
 本稿では、名古屋工業大学准教授の加藤雄一郎氏が提供する「『未来の顧客価値』を起点にしたコンセプト主導型の新製品・サービス開発手法-理想追求型QCストーリー」の骨子を紹介する。(日本科学技術連盟では、同講演会の開催を予定している)

 今の私のモチベーションの源となっている書籍があります。それは、妹尾堅一郎氏が書かれた「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由」(ダイヤモンド社)です。これを読んだ時、大きな衝撃を受け、なんとかしたいという思いを強くしました。開発部門も企画部門も、営業や生産など各部門も、みんな頑張っています。負けようと思って仕事をしている人はいません。だからこそ「技術で優るのに事業で負けるなんてこと、あってはならない。そんなこと、あってたまるか!」という思いを持ったのです。

 実際、今の製造業に何が起きているのかを確かめたくて、100社を超える製造業の管理職以上を対象に自由記述形式のアンケートを実施してみました。そして、その結果にまたショックを受けました。全ての業種ではありませんが、多くの業種で「負の連鎖」が起きていることが分かったのです。それは、価格競争の激化→コスト削減による対応→魅力的な商品の不在→さらなるコモディティ化の進行→さらなる価格競争の激化というものです(図1

図1. 断ち切るべき負の連鎖

 みんな頑張っているのに、その努力が報われていない。新製品や新サービス、新事業を構想する際の思考に問題があるのではないか。頑張っている人たちが報われる、新しい思考技術が必要なのではないか。そのような問題意識が高まっていきました。