デジタル時代に最も重要な技術は、アナログ技術である――。

 「技術者塾」で実施中のアナログ設計連続講座を監修いただいた群馬大学 教授の小林春夫氏は冒頭の言葉を掲げ、デジタル機器時代全盛であってもアナログ技術は極めて重要と語る(関連セミナーへのリンク)。その内容は同氏へのインタビュー連載記事1回目(記事へのリンク)で紹介しているが、こうした一見逆説的な発想はアナログ技術にとどまることなく、技術者としてさまざまなスキルアップを図る際に有効であると小林氏は強調する。逆説的な発想をすることで考え方の幅が広がり、本質的なことに迫るというのがその理由だ。本連載5回目では、逆説的な発想が有効な例について、小林氏に聞いた。(聞き手は日経BP社 電子・機械局 教育事業部)

――小林先生は、「シミュレーターが高性能化・高速化して発達しているが、設計者で最も重要なのは机上で理屈に従って考えて設計すること」と強調しています。なぜでしょうか?

小林氏 設計をするのはシミュレーターではなく設計者だからです。だからこそ、頭を鍛えることが重要なのです。

 設計がうまい技術者に共通するのは、理屈をよく考えていることです。設計をするのは設計者であって、シミュレーターやコンピューターではありません。設計者が机上でよく理屈を考え、「うまくいきそうだ」となれば設計に移ります。まずは手計算で取り組み、その上でシミュレーターで確認するという流れになります。設計に成功している技術者は皆、こうした手順を踏んでいるといえるでしょう。

 回路規模が大きくなれば、“手計算”というわけにはいかないかもしれませんが、その場合でも“うまくいくかどうか”のイメージが涌くことが重要なのです。それには理屈を考える能力を高めねばなりません。繰り返しになりますが、シミュレーターはあくまでも補助的に使うものです。

――「何の情報も即座にインターネットで入手できる時代だからこそ、情報を断ち切って自分の頭で考えることが重要」ともおっしゃっていますね。

小林氏 さまざまなルートから情報を入手できますが、ある段階で情報を断ち切って自分の頭で考えるようにせねばなりません。新しいものを考案する、良い回路を設計するとなると、考え抜く必要が出てきます。そのためにはあえて情報を断ち切り、十分に考える時間を設けることが重要かなと思っています。

 情報はあればあるほどよいという意見があるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか?情報を入れているだけで頭を使っていない、つまり考えていないと思います。情報を入手したら、ある段階で遮断し、考えるというステージに切り替えてみてはいかがでしょうか。

 情報を遮断する機会はいくつもあると思います。私の場合、出張の際に電車や飛行機で移動する時間をじっくり考える時間に充てるようにしています。