2015年8月8日に運行開始予定のJR九州「或る列車」。車窓に映る景色を見ながらスイーツのコースを楽しむという列車です。コースを担当するのは東京・南青山のレストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ成澤由浩氏。おいしいサンドウィッチとサラダ、スープから始まって、そのあとにスイーツが3品出てきて、その間にワインが出て、最後はお茶とミニャルディーズ(お茶菓子)も出てきて、というコースです。

 その車両をデザインしているのは、豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」をはじめ、JR九州の数多くの車両、全国各地の観光列車を手掛けたドーンデザイン研究所の水戸岡鋭治氏。そのドーンデザイン研究所に先週打ち合わせでお邪魔したときに、改造工事中の車両(キハ47)の写真を見せていただきました。ここでご紹介できなくて恐縮ですが、天井の化粧パネルを貼り付けた様子、外観の金色と黒の塗装の様子などが写っていました。特に、外観は顔が映るくらいの仕上がり。途中とはいえ、写真で見る限り「もとの車両がぼろぼろだった」(水戸岡氏)とはとても思えませんでした。

“オビ”に入っているのが「或る列車」のイラスト

 「或る列車」は、もともとは1906(明治39)年にJR九州の前身に当たる九州鉄道が米国メーカーに発注した豪華客車のことです。ところが、日本に持ち込まれた1908(明治41)年には、九州鉄道は国有化されてしまっていました。せっかくの客車は少ししか使われず、車両基地に留置されることが多かったそうです。

 留置されている客車を見た1人に、当時小学生だった元コクヨ専務の原信太郎氏がいました。原氏は後年、記憶を元にその豪華客車の模型を製作します。現在、その模型が原鉄道模型博物館(横浜市)に展示されていて、それを見た水戸岡氏らJR九州の関係者が「実際に走る原寸大の模型にして、スイーツの列車として走らせよう」と考えました。ただし本当に客車を新造するのではなく、ディーゼルカーを改造するわけですが、これがななつ星並みにというか、「もしかしたら『ななつ星』以上に手間を掛けた」(水戸岡氏)車両になっているのです。

 そのような、超多忙な事務所にお邪魔をしていたのは、本日(2015年6月24日)発売の書籍「鉄道デザインの心 世にないものをつくる闘い」に関する打ち合わせのためでした(奥付は6月29日)。本書には、原氏の生前、自宅にJR九州会長(当時社長)の唐池恒二氏、現社長の青柳俊彦氏、水戸岡氏らが訪ねる様子も出てきます。