最も美しい墓地

 「最も思い入れの深い物理学者は?」と聞かれれば、ぼくは真っ先にマックス・プランク(Max Planck、1858~1947年)の名を挙げるだろう。現代につながるハイテクの礎となった量子力学のきっかけは、すべてプランクの発見から始まったといってもいい。

 暮らしは清貧、性格は慎み深く寡黙だった。42歳まで一介の教師にすぎなかったし、自身も教師たろうとしていた。自分が新たな学問をつくろうという野心など全く持ち合わせず、むしろ凡庸であろうとさえした。

 周波数νを持つ一粒の光のエネルギーに関する「プランクの法則」(E)を発見した瞬間、彼は天に選ばれたと思ったに違いない。選ばれた以上は仕方ない、けれど本当はパラダイムなんて破壊したくないのだ――。そんなふうに保守的で冒険を避けようとするプランクの意に反して、その人生はとても振幅の激しいものとなった。

 プランクのお墓は彼が晩年を過ごしたドイツ中部ゲッティンゲンの市営墓地(Stadtfriedhof)にある。ゲッティンゲン駅から徒歩で10分ほどの森林の中にあり、ぼくが巡った中で最も美しく、最もリラックスできる墓地だ。野生の花々が咲き乱れる芝生の中を散策すると、さまざまなインスピレーションが湧いてくるように思える。

ドイツ・ゲッティンゲンの市営墓地。
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