東京エレクトロン(TEL)とApplied Materials(AMAT)社と経営統合の破談を受けて、半導体業界と製造装置業界のこれからを見通す今回のSCR大喜利。3人目の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。

湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上隆(ゆのがみ たかし) 日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北-零戦・半導体・テレビ-』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。

【質問1】2社の経営統合の破談によって、半導体の技術開発にはどのような影響が及ぶのでしょうか?
【回答】大きな支障はない

【質問2】2社の破談によって、半導体業界の業界構造、事業モデルなどにどのような影響が及ぶのでしょうか?
【回答】よりビッグ3(Intel社、Samsung Electronics社、TSMC)の発言権が大きくなる

【質問3】半導体製造装置業界が抱える困難を克服するため、今後どのような戦略・施策が必要になると思われますか?
【回答】シリコンで微細化を続けるとともにシリコン以外に活路を見出す

【質問1の回答】大きな支障はない

 国内では「TELとAMATの経営統合」と報じられていたが、海外のメディアは「AMATがTELを買収する」と表現していた。私も実質的に、AMATがTELを買収するものと解釈していた。もしそうだとしたら、AMATはどのような戦略で、TELを買収しようとしたのか。

 第一の目的は、多重露光に必要な装置群をすべて手に入れること(図1)。TELには、コータ・デベロッパ、洗浄・乾燥装置など、多重露光に必要だがAMATには無い装置がある。また、両社に重複しているが、TELの絶縁膜エッチング装置と減圧CVD装置は世界シェア1位であり、AMATにとって魅力的である。

図1 AMAT、TEL、統合会社の各装置におけるシェア

 このような装置群を有するTELを買収したAMATは、「多重露光のターンキーソリューション」ビジネスを始めるのではないかと予想した。つまり、AMATが用意する装置群をまとめてセットで購入すれば、ボタンを押すだけで多重露光ができるというわけである。

 しかし、このような装置のセット売りは、多くの半導体メーカーにとって、ありがた迷惑な話である。半導体メーカーとしては、自社の多重露光の方式に従って、自社で装置を選定したいと思うはずだからだ。また、AMATはシェア1位の装置を多数有することになり、さらに、「ターンキー」に付加価値をつけて価格を釣り上げてくる可能性がある。半導体メーカーとしては、やりにくいことこの上ない。

 もう一つの目的は、成長性の高い装置を手中にすることだ。AMATは15種類もの装置を開発・販売し、そのうち8種類がトップシェアであるにもかかわらず、成長が期待できる装置があまりない。これに対して、TELは成長性の高い装置群を多数有している(詳細は最後の「自由記述」)。つまり、何もしないでいるとAMATのビジネスはジリ貧になる恐れがあるため、TELの買収を画策したと考えられる。

 しかし、AMATによるTELの買収は破談となった。それは、AMATの戦略とTELの未来には大きな影響を与えるかもしれないが、半導体メーカーの技術開発には、あまり影響しない。むしろ、AMATによる「多重露光のターンキーソリューション」ビジネスがご破算となって、半導体メーカーはこれまで通り技術開発が行えることになり、支障が取り除かれたと言えるかもしれない。