東京エレクトロン(TEL)は4月27日、Applied Materials(AMAT)社との経営統合を取りやめると発表した。理由として、独占禁止法関連の審査で、両社と米司法省との間に認識の違いがあり、解決のメドが立たないことを挙げている。統合スケジュールを3回にわたって延期した末の破談だ。両社は統合をテコに、次世代技術の開発や大型投資で先行する戦略を描いていた。日米トップ企業を核にした製造装置業界の大型再編は水泡に帰し、戦略の見直しを迫られる結果になった。東京エレクトロンは今後の方向性として、AMATと進めている開発面での協力は継続し、他社との提携も含めて柔軟に考えていくとしている。

 半導体微細加工技術の実現の難易度は、急激に高まっている。その一方で、最先端の製造装置を導入できる体力のある企業がIntel社、Samsung Electronics社、TSMCなど一部に限定されるようになり、製造装置産業は成長産業としての未来を描きにくい状態だ。SCR大喜利でも2014年3月に「装置業界のビッグ2の統合は半導体業界に何をもたらすか」と題して、両社の統合の効果について議論した。その時点では、回答者から、市場成長の鈍化、顧客の寡占化、微細化技術の停滞による、製造装置業界が抱える危機感が統合の背景にあることが指摘しされた。そして、新しい半導体製造技術を切り開いていくための、統合会社によるプロセス・インテグレーション力の進化に期待する声も数多く挙がった。

 製造装置業界のリーディング企業である2社の統合は、半導体製造措置業界が直面する困難を乗り越えるために欠かせない一手だったはずだ。この破談によって失った未来、新たな可能性、今後すべき施策があるように思える。今回のSCR大喜利では、今回の破談が半導体業界全体に与える影響と今後の方向性を探ることを目的とした。まず最初の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。

和田木 哲哉(わだき てつや)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
和田木 哲哉(わだき てつや) 1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)など

【質問1】2社の経営統合の破談によって、半導体の技術開発にはどのような影響が及ぶのでしょうか?
【回答】影響はない

【質問2】2社の破談によって、半導体業界の業界構造、事業モデルなどにどのような影響が及ぶのでしょうか?
【回答】 AMATの次の蠢(しゅん)動に注目。そして業界団体の役割が重要に

【質問3】半導体製造装置業界が抱える困難を克服するため、今後どのような戦略・施策が必要になると思われますか?
【回答】本当に装置業界にも顧客にもメリットがあるストック型モデルへの転換

【質問1の回答】影響はない

 半導体製造装置産業の先行きが不透明である理由は、半導体の技術が停滞しているからである。業界の明るい未来が見えないからこそ、危機感を募らせたトップ2社のTELとAMATの経営統合というウルトラCの発表となったのである。

 半導体製造装置産業のさらなる成長と発展のための根本解は、半導体の技術開発の進展である。しかし、TELとAMATの統合によって、技術開発が進展するのかというと、そこでは多少の疑問があった。プロセス装置のトップ2社の統合なのだが、成膜プロセスの開発に必要な装置は、TEL側はともかく、AMAT側は既にほとんど持っている。統合によってAMATの技術開発を推し進めるメリットは少ない。自己組織化(Directed Self –Assembly:DSA)リソグラフィの開発に有益な、TELが圧倒的トップシェアを占めているコータ・デベロッパ、多重露光プロセスの開発で有益なTELが世界トップシェアのバッチ成膜熱処理、やや競争力に劣る洗浄装置が手に入るという点であろう。これは質問2の回答につながる。メリットがそれほどは見えなかったので、統合が破談になっても、余り大きな影響はないと言える。

 では、業界がさらに発展していくために、今、どのような技術が求められているのか。まず100W以上のEUV露光技術。これができないから、次善の策として自己組織化リソグラフィ(Directed Self –Assembly:DSA)や多重露光に期待が集まっている。そして、次世代不揮発メモリーと、高歩留りで低コストな3D-NANDメモリーの製造技術である。ただし、メモリーの製造技術に関しては、装置メーカーはあまり深いところには関与できない。加えて、低コストなTSV製造技術などである。

 TELとAMATの経営統合が実現できたとしても、核心的なところではあまり貢献できない気がする。開発の主体である半導体メーカーからすると、自分の無理を聞いてくれる装置メーカーこそが必要であり、そのためには装置メーカーが複数いてくれた方が都合がよいのである。だから統合はあまり歓迎されなかったのであろう。