前回前々回は、人間(ビジネスマン)の集まりという「企業の本質」に準じて、ソニーの中期経営方針の基本をなす3つのうちの2つ、「各事業ユニットの自立と株主視点を重視した経営」と「事業ポートフォリオの観点からの各事業の位置づけの明確化」へのダメ出しをした。

 続く今回は、「ビジネスの本質」に準じて、残る1つである「一律には規模を追わない収益性重視の経営」を見るところから始める。

 では、ビジネスの本質とは何か。世の中のさまざまなビジネスから偶有性(個別の事物にたまたま当てはまるもの)を全て捨象する(捨てる)と、顧客に価値を提供して対価を得ることだけが残る。つまり、ビジネスの本質とは、「顧客に価値を提供して対価を得ること」となる。

 だから、ビジネスとは、顧客に価値を提供するという原因を作って、対価を得るという結果を出すこととも言えるものであり、よって、ビジネスを行う上で、対価を得ることを重んじるならば、それよりも顧客に価値を提供することを重んじなければならない。

 ところが、しばしば企業は、そのことを忘れて、売り上げの拡大を追求する形で対価を得ることを重んじる。それが各顧客に提供する価値=商品の魅力を減らして、顧客数や商品価格を低下させ、結局は売り上げの縮小を招く。おまけに顧客に提供する価値を生まない事物=ムダを増やして、利益の縮小も招く。

 近年のソニーだけでなく、このいわゆる「売上至上主義」と呼ばれる病に、一体どれだけの企業がおかされてきたことか。病が高じて不祥事を起こした企業も枚挙にいとまがない。

 だから、今回の中期経営方針で、「一律には規模を追わない収益性重視の経営」だけは、好感できる。ソニーの設立趣意書の経営方針の1番目にある「不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず」に通じるものでもある。

 ただし、「一律には」は余計だ。本質とは普遍的なものだから、それに準じた「規模を追わない収益性重視の経営」は、常に正しいものなのだ。なのに「一律には」を付けているところを見ると、本質を分かった上でそれを言っているのか怪しいと言わざるを得ない。

 そんなことでは、収益(利益)性も危うくなりかねない。「収益性重視」だって、それよりも顧客に価値を提供することを重んじなければ、結局は利益の縮小を招くものであるからだ。

 我々ビジネスマンは、「あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置く」こと、つまり、ひたすらに顧客に価値を提供することを重んじればいい。その結果、相応の能力さえあれば、自ずと顧客価値が大きくなって売り上げは拡大し、ムダが減って利益は拡大するものなのである。

 なお、ビジネスの仕組みや手法の導入によって、売り上げが上がったり、コストが下がって利益が上がったりすることももちろんある。それで、エコノミストやコンサルタントなど、経済・ビジネスの専門家とされる人たちは、仕組みや手法のことを盛んに言うわけなのであるが、ビジネスや企業の本質に準じたものを導入しなければ、奏功しない。本質に準じたものを導入しても、本質を分かった上で導入しなければ、フルに奏功することはない。本質に準じていないものを導入して奏功したように見えることもあるが、それは、本質に準じた他の何かのおかげである。

 所詮、仕組みや手法は、どれだけ有用なものであっても、ビジネスや企業の本質ではなく偶有性なのだ。だから、それらについての話は、ビジネスや企業についての本質的な話ではなく偶有的(テクニカルと言ってもいい)なものなのである。