アクアビット代表取締役チーフ・ビジネスプランナーの田中栄氏
アクアビット代表取締役チーフ・ビジネスプランナーの田中栄氏
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 未来を予測して市場創造型(ブルーオーシャン型)の新事業や新製品を見いだす手法である「フューチャーデザイン」。2030年までの未来の変化から、潜在ニーズを見つけ出し、新たな市場や製品を考えていく。
 「技術者塾」の講座「市場創造型の新事業を見いだす『フューチャーデザイン』」において、講師であるアクアビット代表取締役チーフ・ビジネスプランナーの田中栄氏は、2030年までの社会や市場、顧客、産業構造の変化を示した「未来予測レポート」を解説する。なぜ未来予測を求める声が日本企業の中で高まっているのか。同氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)


──今、なぜ、未来を予測することが必要なのでしょうか。

田中氏:これはもう、お約束のように私が聞かれる質問です。一言でいえば、「過去の延長線に未来はないから」です。

 米国を除く先進国では、これまで人口が増え続けてきたのに、今後は減ることが当たり前になった。ひと昔前はインフレだったのに、今はデフレが当たり前です。技術を見ても、例えばブロードバンドのように、なかったものが突然出てきて普通になるなど、前提がガラリと変わっている。

 それなのに、多くの企業は事業計画を大体3年単位でつくっていく。不思議なことに、多くが3%成長、5%成長といった右肩上がりの計画を立てている。別に間違っているとは言いません。でも、その既存事業は、10年後、15年後にどうなっているの? と聞きたい。事業計画は過去の延長線で考えている一方で、社会は前提からガラリと変わっている可能性が高い。明らかに社会が従来の傾向とは違うのに、いつまでも過去の延長線で事業計画を立てていてよいのでしょうか。

 従来とは異なる社会が未来の前提なのであれば、そこから、自分は、所属する部署は、うちの会社は、どうしたらよいのか、何をすべきなのかが見えてきます。つまり、今流行の「バックキャスト」の手法です。バックキャストで事業や開発する製品の戦略を考えれば、未来と現状との間にいろいろなギャップがあることが分かる。そして、そこで初めて気付くわけです。「このままではマズい」と。本当にこのままでよいのだろうかと真剣に考え、中・長期計画は、もう1度、違う視点から考え直すことになるでしょう。

 なぜ未来を考える必要があるのか? それは、過去の延長線に未来はないから。バックキャストの手法で、未来の社会はどうなるかを把握し、そこから個々の企業が戦略を考えていく。そのために必要なのが、未来予測というわけです。


──しかし、未来の姿を予見することが本当にできるのでしょうか。

田中氏:確かなことはあります。来年に人口がここまで増えるとか、経済規模がこれくらいになっているとかいったことです。しかし、私が見ている限り、未来の7割ぐらいは、こうなりたい、ならなければならないという誰かの意思から構成されていると思います。その動機には不純なものも含まれているかもしれない。誰かが出世を望んだとか、あるいは、社会的意義を考えたのかもしれない。それはともかく、誰かが意思としてやった結果として出来るものが未来であって、単純に予測するものではないと私は考えています。

 なぜ、私が未来予測レポートを作成できるかと言えば、新しいものを作っているいろいろな現場に行き、当事者に何をしたいのか、何に困っているのかをさんざん聞いているからです。

 例えば、大手企業から公式な場で話を聞いても、通り一遍の話が多いことでしょう。私が求めているのは、そうではなく、「リアルにどうなるか」という話です。本当のことは現場の人たちがどう考えているかを見ないと分からない。だから私は、毎日のように現場を見ている。その結果、未来予測が書けるというわけです。

社会全体の大きな潮流の変化「メガトレンド」。「サステイナビリティ」「クラウド・コンピューティング」「ライフ・イノベーション」の3つがある。
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