電磁気学を理解することは、交流や無線通信を扱う上で欠かせない。前回は、日経BP社の技術者塾で「アンテナ設計の基礎」を教える根日屋英之氏(アンプレット 代表取締役社長)に、電磁気学を理解するための極意や、波動方程式の理解のコツを聞いた。今回は、電磁気学でよく使われる「複素表示」と「オイラー表記」について、解説してもらう。

――電磁気学では複素表示やオイラー表記がよく使われます。複素表示は「z=x+iy」とよく書かれますが、虚数単位の「i」が出てくるためか、理解しにくいという声をしばしば耳にします。

 「z=x+iy」という複素表示を見たときは、「1つの式にxとyという2つの独立した世界があるんだ」と思うだけで十分です。2つの世界を区別するために、片方(y)に「i」というマークを付けているのです。

――なぜ、2つの世界を区別する必要があるのですか。

 交流は直流と異なり、インピーダンスという概念があります。直流の抵抗に相当するものだけでなく、抵抗と同じ単位(Ω)だけれども、周波数によって値が変化するコイルやコンデンサーのような“変な部品”が出てきます。この抵抗成分(周波数が変わってもΩの値は変わらない)とリアクタンス成分(周波数によってΩの値が変わる)をインピーダンスとして、1つの式(Z=R+jX)で表すと便利だから、複素表記を多用するのです。

 数学の世界では、複素数(z=x+iy)表記において、実数部「x」と虚数部「y」が別の世界であるという印として、「y」の前に虚数単位の「i」を付けています。一方、電子工学の世界では、「i」は電流で用いることが多いので、インピーダンス(Z=R+jX)などでは、虚数単位「i」の代わりに「j」を用います(図1)。

図1
図1 複素表示
複素数は単なる表記の手段にすぎないという理解で十分である。