意味を分かっているから改善点が見える

 MUJIGRAMにはもう一つの特徴がある。作業の手順や基準と一緒に作業の意味や目的も必ず書いてあることだ。作業手順や基準だけでも、仕事をこなすことはできる。しかし、作業の意味や目的を理解していなければ、作業の問題点や改善点を発見できず、それをより良いものにしていくことができない。

 設計にもやはり同じことがいえる。例えば、筆者がメーカーの技術者に「なぜこの寸法は10mmにしているのですか」「なぜこの底面に段差を付けているのですか」などと質問すると、「昔からずっとそうしている」「流用元の図面がそうなっていたから」といった答えが返ってくることが多い。性能値や寸法値の根拠をきちんと理解している人がどんどん減っていっているのだ。

 性能値や寸法値の裏側には、そこに至るまでのストーリー(背景や経緯)がある。形状やや方式がどのようにして生まれたのか、過去にどのようなトラブルがあったのか、なぜ違う性能値や寸法値ではダメなのか、なぜ顧客はその性能値や寸法値を要求しているのか――。こうしたストーリーを把握することが重要であるし、それこそが伝承すべき設計ナレッジなのである。過去を振り返り、ストーリーを把握することで、現在の設計を本当に理解したことになるし、そこからさらに改良できるのだ。考える設計者を育てるには、こうした取り組みが欠かせない。

 しかし、今の設計現場には、考えない設計者を作り上げているあしき文化が根付いている。考えない設計者を作り上げた諸悪の根源は、「流用設計」だ。流用設計の弊害は別の機会に詳しく述べるが、流用設計をやめない限り、考える設計者は育たないだろう。今こそ、流用設計をやめて、設計高度化にかじを切らなければならない。