日本に大挙訪れて爆買いする中国人観光客の様子を見ているとつい忘れてしまいそうになるが、中国は社会主義の国である。国の主役は労働者であり、憲法の第一章第一条は、中国は工人階級、すなわち労働者階級が指導する、という文章で始まる。労働者の日である5月1日のメーデー(労働節)は祭日だ。もっとも近年は、1999年から2007年まで、国内の消費喚起を目的にメーデーを7連休にするなど、労働者の権益よりは消費にスポットが当てられてきた(2008年~現在は3連休)。

 ただ近年のメーデーでも、労働者に縁のある行事はある。その代表的なものが、「労模」、すなわち模範労働者の選出・顕彰だ。選出は5年に1度。今年はちょうどその選出の年に当たり、全国模範労働者の称号を授与された2046人がメーデー直前の4月28日に北京の人民大会堂で開かれた授与式に出席。式には習近平国家主席、李克強首相も参列し、受賞者の栄誉を称えた。

 さて、今回選ばれた全国模範労働者に、米Apple社のスマートフォン(スマホ)「iPhone」を製造する世界最大の工場として知られるEMS(電子機器受託製造サービス)世界最大手、台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕の中国河南省鄭州工場で働く社員が選ばれ注目を集めた。同社の鴻超准事業群(事業部)に所属する汪登輝さんである。今年のメーデー前後に『河南日報』『鄭州晩報』など複数の中国メディアが汪さんにインタビューしているので、それらをまとめてフォックスコンの工員が模範労働者になるまでの歩みを描いてみることにしよう。

全国模範労働者に選ばれた汪さんの勤務するフォックスコン鄭州工場
世界最大のiPhone製造工場だ。
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