夢を追え!

 夢は、従業員をワクワクさせるためだけのものではない。顧客はもちろん、サプライヤーをもワクワクさせるためのものでもある。夢には、顧客の購買意欲を増し、サプライヤーとの連携を深める働きがあるからだ。夢によっては、投資家(≠投機屋)の投資意欲を増すこともできる。

 そして、ソニーは、井深大さんによるかの有名な設立趣意書の「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を始めとして、どこよりも冗舌に夢を語ってきた企業である。

 そのことを意識してのことなのだろう、今の社長である平井一夫さんも、中期経営方針発表の場で『お客様の好奇心を刺激する、真に魅力的な商品やコンテンツ、サービスを提供し、「感動」をもたらすという、このミッションを会社として果たして行く』と、方針に書かれていない、一見、夢らしきことを言っている。

 しかし、「ミッション(使命)」と言われてしまうと、顧客はワクワクしなくなる。大方の従業員もそうだ。サプライヤーも投資家もそうだろう。ならば、それを夢と呼ぶことはできない。

 また、平井さんは、『そのためには、事業のサステナビリティを確保し、成長領域に十分な投資を行える財務体質に戻さねばなりません』とも言っている。夢(らしきもの)を追うのは、財務体質を良くしてからと考えているようだ。しかし、それでは順序があべこべである。

 平井さんは、財務体質を良くしてから夢らしきものを追うのではなく、今、夢を追うことで業績向上を上積みし、その結果として財務体質を良くすることを考えるべきなのだ。

 いや、ここはもっとソニーらしく、ごく単純に言おう。そもそもソニーは、仕事を「ミッション」ではなく、徹底的に「楽しみ」としてしまう企業であり、それが奇跡と言われた成長の原動力となっていたことを忘れないでいただきたい。