世界をワクワクさせろ

 さて、ソニーの中期経営方針にないのは、従業員についての項目だけではない。

 中期経営方針では、各事業を「成長牽引領域」、「安定収益領域」、「事業変動リスクコントロール領域」に振り分ける形で、「事業ポートフォリオの観点から各事業の位置づけを明確化」しているが、そこには「夢」がない。つまり、「儲かりそうな事業をやる」とは言っているのだが、「ワクワクする事業をやる」とは言っていない。

 しかし、ビジネスマンとは人間である。故に、よりワクワクすることをやるときに、より大きな顧客価値を生むものだ。

 また、企業の本質とはビジネスマンの集まりであるから、ビジネスマンが生む顧客価値を最大化することが、企業が生む顧客価値を最大化することである。そして、それは、企業が顧客から受け取る対価を最大化すること、すなわち企業の最大の稼ぎを実現することであり、その「企業の最大の稼ぎを実現すること」こそが最良の経営だ。

 ならば、より良い経営をするためには、従業員がよりワクワクする事業をやらねばならず、より良い経営をしなくてよい経営者などいない。

 今のソニーの経営者は、このことを分かっていないから、中期経営方針で「ワクワクする事業をやる」ということを言わないばかりか、儲かりそうな事業だというだけで不動産事業を始めてしまうのだろう。

 おっと、いけない。世の中には、どのような価値を生む事業なのか、つまり、どのように社会の役に立つかはどうでもよくて、ただ儲かりそうな事業にワクワクする人もいることを忘れていた。もしもソニーがそういう人の集まりになっているのであれば、私の言っていることは当てはまらないので撤回しよう。

 ソニーにも不動産事業をやりたい人がいるかもしれないことも忘れていた。いるのであれば(なぜそういう人がソニーに入ったのかは謎だが)、他の事業の価値を減らしてしまわない限り、不動産事業もアリだろう。しかし、少なくともエレクトロニクス事業のブランドイメージに与える違和感が、その価値を減らしていることは間違いない。

 ちなみに、今でも売上の約7割を占めるエレクトロニクス事業は、ソニーの本業であり、今でもソニーの従業員の大勢をワクワクさせる事業は、世界をワクワクさせるエレクトロニクス事業だと私は思っている。ソニーは、総体としては、そういう価値観を持つ企業なのだ。