山本 現状では、よほどうまくやらないとコストが合わないんじゃないかと思うんですよね。

川口 合わないよね。

山本 水素に限らず、例えば、太陽光発電を何らかの形で蓄電して電力系統に負担を掛けないような形で売電するという手法も、この図にあるダックカーブをくらうケースがある。そうなってくると、実は「再生可能エネルギー、いらねえじゃん」という話になってしまいます。それ自体は夢のある話なんだけど、実現するために得られるエネルギー以上のコストがかかるわけで。

 そうすると脱原発と脱化石燃料の両方をやっていって、あるいは安全な電力で、かつCO2を削減するという環境負荷の小さな発電技術を考えたときに、いろいろなものが吹っ飛んでしまう。

 再生可能エネルギーでやるとしても、それでカバーできる範囲はものすごく限られていて、出力が不安定である以上、それを補正する技術として蓄電の話が出てきます。その蓄電自体はそのままでは環境負荷が高いという“いたちごっこ”が発生するわけです。

 それを水素貯蔵で統合しようという話を自動車会社などが言い始めています。でも「良さそうだからとりあえずやってみよう」というのは、この件に関しては乱暴だと思うんです。水素スタンドはそれほど簡単にできるものではないし、電力系統に負担を掛けないことが金科玉条になるのであれば、その蓄電にかかるコストの捻出も考えなければならないですよね。

今井 そうですね。

川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)
1984年、慶應義塾大工学部卒、イリノイ大学修士課程修了(化学専攻)。 技術とイノベーションの育成に関するエキスパート。付加価値となる商品サービス機能の独自性の根源を、文化的背景と体系的に紐付けたユニークな方法論を展開する。その代表的著作『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社BIZ)は、技術と経営を結ぶ良書に与えられる「日経BizTech図書賞」を受賞し、英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳される。台湾、韓国では、政府産業育成のための参考書として選ばれ、詳細なベンチマーク報告書が作成される。心をつかむレクチャーの達人としても広く知られる。TEDx TokyoにおけるToilet Talkは40万回再生という異例の反響を得ており、Yahoo Japanの動画サイトでは世界の傑作プレゼンテーション・ベスト5に選ばれる。世界的な戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンにおいて、アソシエート・ディレクターを務めたのちに株式会社盛之助を設立。国内のみならずアジア各国の政府機関からの招聘を受け、研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。(写真:加藤 康)
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川口 NaS電池や、レドックスフロー電池のような蓄エネ技術の話は以前からあったけれども、ここにきて水素が最有力候補として急浮上してきた。

山本 彗星のように出てきたんですよね。