ルネサスエレクトロニクスが4月1日、日本オラクル元社長の遠藤隆雄氏を6月付で会長兼最高経営責任者(CEO)とする人事を突然発表した。作田久男会長兼CEOは退任し、鶴丸哲哉社長は続投する。
ルネサスは、今回の人事の理由について、「現在取り組んでいる「変革プラン」において、財務基盤の安定に向けた構造改革に一定のめどがついた」ことを挙げている(参照リリース)。確かに、2015年3月期は2010年の会社設立以来、初めて黒字となる見通しであり、数字上は経営再建に道筋を付けたと言えるかもしれない。また、「今後さらにこの取り組みを加速させるため、当該分野において豊富な知見・経験と実績を持った新しいリーダーシップが必要であると判断し、新しい代表取締役会長兼CEOの選任を決定した」とも説明している。
今回の人事は、その唐突さと、半導体とは遠いソフトウェア畑から次期トップを選んだ意外性に好奇の目が注がれている。ところが、同社から発表されている情報は少なく、外野からはその意図を測りかねているようにも見える。今回の人事によってルネサスがどのような方向に向かうのか。この大喜利では、同社の今後を探る上での切り口の抽出を目的とした。何らかのファクトを発掘することよりも、ルネサスの今後の経営を考える上での視点を、各回答者の経験や価値観から挙げることに注力した。
最初の回答者は、服部コンサルティングインターナショナルの服部毅氏である。
服部コンサルティング インターナショナル 代表
【質問1の回答】適切、と言うよりは反転攻勢に打って出るには時期的に後がない状況
トップ交代の時期は、多くの人が予測していたような2016年以降ではなく、作田会長就任後わずか2年の今年へと突然早まった。中途半端な感をぬぐえない。なぜ突然早まったのか。
ネット上に流れている密室内の噂話については、本稿の最後に言及することにして、まずはルネサスを取り巻く厳しい状況を見てみよう。グローバルな半導体業界の状況は、ルネサスの予測よりもはるかに過激に、また急速に同社には不利な方向へと変化している。ライバル海外勢の相次ぐM&Aによる規模の拡大、とりわけ2015年3月初旬に明らかになった、全く予想もしなかったNXP Semiconductors社によるFreescale Semiconductor社の買収の影響は大きい。これにより、ルネサスは車載半導体売上高世界トップの地位をNXP社に奪われることが確実になった。しかも、NXPとFreescaleの連合は東芝をも押しのけて、2015年世界市場売上高7位にランクインすると予測される。かつて「世界3位の半導体メーカーの誕生」などと一部でもてはやされたたルネサスは、このままだと今年トップテンから圏外へ転落してしまうだろう。
NXPとFreescale連合は、ルネサス テクノロジやルネサス エレクトロニクスのような主導権があいまいな合併ではなく、NXP社による単純な買収である。今後の意思決定も早いことだろう。しかもNXP社やFreescale社には、ルネサスの役員から一般エンジニアに至る多数の先見性ある優秀な社員が転職。車載半導体で「打倒ルネサス」をかかげて闘志を燃やしている。ルネサスは数多の優秀人材のリストラ、海外あるいは国内外資系企業への流出で、人権費は削減できても、結局は自分の首を絞めている。
それだけではない。車載半導体売上高でルネサスに肉薄するInfineon Technologies社がInternational Rectifier社を買収して売り上げを伸ばし、ルネサスを抜く勢いだ。その他Intel社をはじめ多数の半導体企業も車載半導体に参入し、成長の波に乗ろうとしている。自動車メーカーに対してトータルソリューションを提供するため、外資各社がアナログやパワー半導体やセンサーまで品ぞろえを豊富にする中、ルネサスはリストラの一環で商品の絞り込みを行っており、単品商売から抜け出せそうにない。
しかも、ルネサスは、人材のリストラに次ぐリストラを終わりなく繰り返すだけではなく、鶴岡工場のソニーへの売却を含む全国各地に散らばる工場や設計開発拠点の統廃合・再編、そして一部の半導体事業の売却で、縮小均衡を図ろうともがくことで精一杯。新分野参入、新事業の育成など反転攻勢に出ることもままならず、未来への確固たるシナリオはいまだに具体的には描けずにいる。成長が見込める新分野に果敢に打って出て反転攻勢へのギアチェンジするのは、今でしょう。