新市場の創出や今後の成長が見込まれる分野で目立ち始めた、強い半導体メーカーがかかわるM&Aの深層を探るSCR大喜利。今回の回答者は、某半導体メーカーの清水洋治氏である。



清水洋治(しみず ひろはる)

某半導体メーカー
 某半導体メーカーで、(1)半導体の開発設計、(2)マーケット調査と市場理解、(3)機器の分解や半導体チップ調査、(4)人材育成、という四つの業務に従事中。この間、10年間の米国駐在や他社との協業を経験してきた。日経BP半導体リサーチにて、半導体産業に関わるさまざまなトピックスを取り上げつつ、日本の半導体産業が向かうべき方向性を提起する連載コラム「清水洋治の半導体産業俯瞰」を連載中。

【質問1】元々強い半導体メーカーが、なぜ今M&Aに走っているのでしょうか?
【回答】ポストスマホ・マーケットでの地位確保

【質問2】現在の一連のM&Aの類似例を過去の半導体業界で探すと、どのような事例が挙がりますか?
【回答】かつての「Alpha」チップのように、消えた優れた技術のDNAを伝えることができるか

【質問3】強いメーカーが進める規模の拡大や機能の強化は、半導体業界の構造や勢力図にどのような影響を与えると思われますか?
【回答】市場の獲得では「All or Nothing」の世界が広がる可能性も

【質問1の回答】ポストスマホ・マーケットでの地位確保

 過去5年、半導体のみならずIT関連ビジネスや技術を進化させてきた牽引者はスマートフォンであった。CPU性能の向上、グラフィック能力の強化、通信速度アップなど明確な進化の指標があり、各メーカーは自社の強みを発揮することで市場を拡大してきた。

 しかし結果としてスマホ向け半導体市場は、半導体メーカーは2強(Qualcomm社、MediaTek社)体制、加えて中国メーカー(HiSilicon社やSpreadtrum社、RDA社)の台頭という構図で落ち着いた。多くのメーカーはこのカテゴリーからの撤退を余儀なくされている。2強になんとか食らいついているのは、Intel社だけという状況である。そのIntel社は中国メーカーとの協業を進めており、これもM&Aに近い業界再編の現れである。

 一方でNXP Semiconductors社によるFreescale Semiconductor社の統合のような大型M&Aは、スマホ市場での失地回復のための、次の巨大市場を見据えた業界再編の動きと捉えている。2社ともに2000年代後半までは紛れもなく携帯用チップのメーカーであり、市場変化に合わせて携帯向けチップ事業から早々に撤退を行った。

 ポストスマホもスマホと同じく、チップセット、キット、プラットフォーム、業界標準がキーワードになっていく。IoTにせよ、コネクテッドカーにせよ、自動運転にせよ、1チップでは完結しない。自社の強みを補強・補完するアイテムを持つ会社同士が共同戦線を張り、ポストスマホの地位確保、市場支配力強化を目的としたものだと考える。