大企業といっても業界、会社のありかた、事業によって違うのですが、その会社の本流の事業になるほど従事している社員の数は増えます。大人数で大規模の仕事をするのであれば、分業する方が効率的です。例えば技術者であれば、ある専門分野のエキスパート、生き字引になることが会社にとって効率的ですし、社員にとっても他のことをしなくて良いのは楽でもあります。

 そのまま事業がずっと続けば会社にとっても個人にとっても良いのですが、キャリアの途中で途切れると悲惨です。エキスパートが実は「歯車」だったかもしれないことに気付くのです。自分の専門技術を生かして他の企業に転職できれば良いのですが、もし異なる業種や規模の違う組織に移らなければいけない場合には、専門に特化したことが裏目に出かねません。

 例えば企業から大学への転職では、同じ分野の研究をするといっても、必要とされる能力はかなり異なります。研究開発するためのインフラや間接部門が整った大企業と違い、大学では多くのことを一人でやらなければいけません。そもそも、研究するための人・物・金を集めるところから自分でやらなければならないのです。私も大企業から大学に移った時に、企業在籍中に嫌な顔を見せずに事務仕事をして下さった庶務の方のありがたさを骨身に染みて感じました。在職中にもっと感謝しておけば良かったと後悔したものでした。

 そうした、仕事の環境を整えるところから始めなければいけない時には、専門知識だけでなく、少々わからないことでも他の人も巻き込みながら何とかやってしまう、一種のサバイバル能力が求められます。名門大学出身で大企業の大きな事業に携わっていた人でも、小さな組織で自分で何でもやるという経験をされてこなかったせいか、ベンチャー企業などで働いていた人に適応力で負けてしまうことも多いのです。