本間技術士事務所の本間精一氏
本間技術士事務所の本間精一氏
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──どのような経歴の人だったのですか。

本間氏:例えば自動車メーカーや部品メーカーでは、プラスチックを専門的に扱う「モールド部門」などと呼ばれる部門があり、そこでいろいろな体験をしたり技術情報をまとめたりして、長い期間に経験と知見を持った人材が育成されていました。その部門の社員は、横断的にいろいろと動いていました。社内で自動車部品を設計する一方で、外部の成形メーカーに出掛けていき、一緒になって問題を解決する。また、製品設計に対する信頼性を評価する部門と連携して仕事をするといった横断的な動きをして、トラブルや問題などいろいろなことを体験するわけです。そのため、自動車のことが分かり、プラスチックが分かって、成形のことも分かるようになっていく。つまり、先ほどの総合的な技術を習得した人材(ベテラン)になるというわけです。同じことが電機業界などでも言えます。


──「以前」とは、どれくらい前のことなのでしょう。

本間氏:1990年代ですね。2000年を過ぎると、そうしたベテランが明らかに少なくなってきました。日本経済が安定成長期から停滞期に移行し、多くの日本メーカーが人員抑制を行いました。こうした合理化の影響を受けたのです。

 加えて、日本メーカーでは技術開発の専門化が進みました。「私は設計だけ」「私は構造解析だけ」「私はCAEで解析するだけ」という具合に、非常に限られた専門分野を設定し、そこを深く掘り下げていくことが多くなった。いわゆる、スペシャリストの奨励です。一方で、全体を見渡せる人は、会社の中ではあまり価値を認められないという風潮がまん延していきました。その結果、プラスチック製品のものづくりは今、いろいろなトラブルに遭遇しているというわけです。


──最近、特に目立つトラブルは何ですか。

本間氏:最も多いのは、強度に関するトラブルの相談ですね。プラスチック製品が割れたり、クラックが入ったり、といったものです。ただし、最近になって出てきたトラブルというわけではありません。私からすれば、繰り返して起こっているなという印象です。でも、直面している人にとっては、「新しいトラブル」と感じることでしょう。

 注意すべきなのは、今、海外で生産したプラスチック製部品を含む製品の強度トラブルが増えていることです。コスト削減のために、プラスチック製部品を含めたサブアッシーまでを海外で造り、それを日本に持ってきて製品に組み込む。ところが、製品としての不具合が発生し、原因を調べたらプラスチック製部品が割れていた…と。こうしたケースが目立っています。自社で生産している時にトラブルに気づく場合が多いのですが、もちろん、客先でトラブルが発生するケースもあります。

 さて、誰がこのトラブルに対して責任を持って解決するのでしょうか。結論から言えば、日本メーカーで製品を造る関連の部門、すなわち設計や生産、品質保証部門などの技術者が、自分たちで解決策を見つけ出さなくてはなりません。

 普通に考えれば、プラスチック製部品を含むサブアッシーを造った海外メーカーが責任を負うべきでしょう。ところが、そうしたメーカーは、とにかく安く速く造ることが仕事。原因を究明して短期間に問題解決するような体制を社内に備えているところは、ほぼありません。