流行りものの経営手法への依存はダメだ


 実は、ソニーは、1994年に社長である大賀典雄さんの「ソニーの社長は株主の立場で各カンパニー社長の経営をチェックする」との方針の下、「社内分社制度」とも言われるカンパニー制を導入したものの、結局、2005年に廃止した。ソニーのカンパニー制導入は、日本では初めてだったが、米国で流行っていた経営手法の採用である。そのとき、まだソニーの社員だった私は、導入直前の社内アンケートで、周囲がこぞって賛成する中、1人で反対したものだ。

 また、カンパニー制導入の翌年に社長になった出井伸之さんは、1999年、株主視点重視の経営指標であるEVA(Economic Value-Added:経済的付加価値)を導入したが(カンパニー制と同時に廃止された)、これも米国で流行っていた経営手法の採用だ。

 当時、出井さんは、1999年の講演でこう話している。『自社の株価を、日本の経営者はもっと意識してもいいはずです。ストックオプションにしても、雇われマネジャーである我々が投資家と同じような立場でものを見て経営していくことを促すものです。経営者と投資家の視点というのをだんだん同じようにしていくことが必要です。本社は、どちらかと言えば「投資銀行」的な立場をとり、オペレーションは部門部門に任せたほうがいいという考えです。アクティブな投資家の立場で事業を評価する、あるいは全体戦略を練り、必要なコーディネーションを行うことに特化する』(『漂流する巨船 ソニー』、週刊東洋経済eビジネス新書No.101」より)

 皮肉なことに、こうした株主視点重視の経営は、2003年にソニーショックと呼ばれる株価暴落を引き起こし、以来ソニーは、いまだに業績低迷から抜け出せずにいる。

 なのに、だ。どこかのコンサルの影響でも受けたのか、またもや、今度は社長の平井一夫さんの指揮の下、ROEを最も重視する経営指標に据えた「株主視点を重視した経営」という、米国で流行っている経営手法を採用するというのである。

 しかし、繰り返すが、本質的には、投資家視点を重視する理由はどこにもなく、投資家のためにも、重視すべきは投資家視点ではなく顧客視点なのだ。

 つまり、ソニーは、普通の企業がそうであるように、それが本質と乖離しているにも関わらず、世の中が良しとする経営手法を良しとする経営、すなわち、流行りものの経営手法に依存する経営をしてきたのである。それは、無思考な経営と言わざるを得ないものであり、無思考な経営で勝ち続けられるほどビジネスの競争は甘くない。