「出る杭」を求めていたことで知られるかつてのソニーで、世界に先駆け、しかし勝手にサプライチェーン革新を主導するなどして、「出る杭」扱いされた者。そんな私の連載コラムである以上、ソニーの今についての話から始めるのがいいのだろう。

 そう思い、ソニーの今を書くのは拙著『ソニーをダメにした「普通」という病』(ゴマブックス、2008年)の上梓から実に7年ぶりとなるが、まずは、2015年2月に発表されたソニーの「2015~2017年度中期経営方針」を評価してみることにした。

重視すべきは投資家視点ではない


 ソニーのホームページ(ニュースリリース)に掲載されている中期経営方針には、「株主資本利益率(ROE)を最も重視する経営指標に据え、中期経営計画の最終年度となる2017年度に、ソニーグループ連結で、ROE10%以上、営業利益5,000億円以上を達成することを目標とし、以下の基本方針のもと、高収益企業への変革を進めてまいります」とある。「以下の基本方針」とは次の3つを指す。

・一律には規模を追わない収益性重視の経営
・各事業ユニットの自立と株主視点を重視した経営
・事業ポートフォリオの観点から各事業の位置づけを明確化

 そして、株式市場はこれを好感し、発表の翌日、ソニーの株価は5年ぶりの高値となった。マスメディアで報じられた記事を見る限り、エコノミストやコンサルタントなど、経済・ビジネスの専門家とされる人たちも概ね好感していた。

 しかし、彼らが好感していた点である「株主視点を重視した経営」は、いただけない。

 企業とは、そこから偶有性(個別の事物にたまたま当てはまるもの)をすべて捨象する(捨てる)と、ビジネスマンという人間の集まりになるものだ。だから、企業の本質とは、人間の集まりであり、よって、企業を所有することは、誰にもできない。

 ということは、である。一般的に、株主、すなわち投資家は企業の所有者とされるが、爆弾発言になることを承知で言うと、その考えは本質的に誤りであり、投資家は、企業の所有者ではない。つまり、企業の所有者の意向に沿うという意味での、企業が投資家視点を重視する理由はない。

 ならば、企業が投資家視点を重視する理由として残り得るのは、資金調達力を高めること、ということになるのだろうが、資金調達力を高める方法は、要は投資家へのハイ・リターンの実現である。そして、そのためにまず考えなければならないのは、大きな顧客価値の創造による大きな対価の獲得、すなわち大きな稼ぎを実現することであり、大きな顧客価値の創造は、本質的に、投資家視点の重視ではなく顧客視点の重視から生まれる。

 つまり、投資家視点を重視する理由はどこにもなく、投資家のためにも、重視すべきは投資家視点ではなく顧客視点なのだ。

 だから、かつて米国グーグル社が「Googleの理念」の「Googleが発見した10の事実」の「1番目の事実」で「Googleは、当初からユーザーの使い心地を第一に考えてきました。顧客を最も重要視していると謳う企業はたくさんありますが、株主にとっての企業価値を高める誘惑に負け、犠牲を払う会社企業も少なくありません」と言っていたのは、正しい。

 ちなみに、投資家の皆さんには、企業の所有者としてではなく支援者として、自らがより大きなリターンを得るために、投資家視点ではなく顧客視点を重視するよう、企業に提案することをお勧めしたい(ただし、私の言う投資とは、投機のことではない)。