老若男女を問わず誰もが理屈抜きで応援したくなるアスリート、Air-kこと錦織圭選手。錦織選手のジャンピングショットは、空間を切り取るようなスイングに、相手コートにペーストしたかのようにはまるボール。極め付けは、遊び心たっぷりの意表を突くドロップショットで、見る者の心からも“エース”を取っていきます。

 ルックスも動きもまさに映像向きの、ネットワーク・スマートフォン世代の申し子。と思いきや、大きなテニスバックを抱えコートに入場してくる錦織の姿は、かつてデイパックを背負い自分探しの旅に出た頃を彷彿とさせ、どこか郷愁と親近感も覚えさせます。

 先日も、英語を巧みに操りながら世界の大きな選手相手に孤軍奮闘している勇姿に、思わず「いけ!」と熱く叫んでしまってからふと我に返り、1人恥ずかしい思いをしました。同時に、思っていた以上に自分が日本びいきであることと、彼へのエールは自分自身を鼓舞する声でもあることに気づかされました。プレーだけではなく、観客の内面を刺激するそのたたずまいも、人気の所以かもしれません。

 錦織勝利のうれしいニュースを聞くたびに、信じられない思いがするのが、この世界ベスト4位にまでなった日本人選手の身長がわずか176cmであること。世界の競技人口1億人以上といわれるテニス界において、頂点に上りつめる選手勢の身長が190cm強の中、誰もが驚きを超え、レスペクトさえ感じるのは、その不利な大前提を克服した努力と才能にあると思います。

 ひと昔前の平面的な、幅と奥行きだけのテニスと違い、現代ではコートを3次元的に捉え、さらに時間と間合い、高さや深さが加わった立体的なテニスに変わってきました。一方、かつて主流であった単純な早い球足の守りのプレーや、サーブ・アンド・ボレーはほとんど姿を消し、早い展開をもたらす攻撃的なトップスピンショットを多彩に仕掛けていくストローカーが主役です。

 このようにテニス界が様変わりしてきたベースには、さまざまなテクノロジーの進化の貢献があると思います。13歳の頃、真剣にプロテニス選手を目指して練習に明け暮れながら、道を誤って(?)現在工学研究の世界に進んだ筆者が、スポーツをテクノロジーするのがこの連載です。その第1回は“テニスの今昔”にスポットを当ててみたいと思います。