近年、道路、橋梁、トンネル、建築物などの社会インフラの建設後の運用やメンテナンスが、当該社会インフラの寿命やライフサイクルコストに影響を与えることが認識されるようになってきています。また、日本においては、高速道路のトンネル内における天井落下事故が発生するなど、社会インフラのメンテナンスに係る問題が各方面で顕在化しており、国民が社会インフラの安全性に不安を抱く事態が生じています。このため、国・地方公共団体などが管理する社会インフラに対して、いかに計画的・戦略的にメンテナンスを行っていくかが問われています。

 このような背景のもと、特許庁は「平成25年度特許出願技術動向調査」において、国内外で出願された社会インフラメンテナンス技術の市場環境や特許出願動向、研究開発動向を明らかにしました。本調査では、社会インフラの中で重要な位置を占める道路、橋梁、トンネル、建築物について、補修・補強工法技術、補修・補強材料技術、計測技術、調査・診断・データ利用技術の4つの技術から成るメンテナンス技術に関して、日本、米国、欧州、中国、韓国といった国や地域ごとに見た特許出願動向や論文発表動向などから我が国の技術競争力、産業競争力や今後目指すべき研究開発、技術開発の方向性を示しました(特許庁による調査レポートの概要(PDF形式)はこちら)。本稿では、同調査の要点を紹介します。

社会インフラ老朽化により市場拡大

 日本では、高度経済成長期を中心に集中的に整備が進められた社会インフラのストックが、建設後50年経過し、一斉に老朽化してきています。今後もこの老朽化のスピードはより一層加速していくことが予想されており、平成44年には、道路橋(2m以上)の65%、トンネルの47%が、建設後50年以上を経過するとの国土交通省の試算が出されています(図1)。

図1 建設後50年以上経過する道路橋(2m以上)、トンネルの割合
出典:国土交通白書2013

 また、2012年の笹子トンネル天井板落下事故を契機として、老朽化したインフラの維持管理の在り方に関する議論が高まっています。これを背景として、インフラ長寿命化基本計画が策定されました。同計画は2030年までの我が国のインフラの保守管理に関するロードマップを規定しており、インフラの保守管理が日本の重要政策の1つに位置づけられています(図2)。

図2 インフラ長寿命化基本計画(ロードマップ)
出典:内閣府「インフラ長寿命化基本計画」
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 一方、海外に目を転じると、欧州市場はリノベーション中心の市場となっており、今後もその市場規模はほぼ横ばいの状態が続くものとみられています。また、例えば、ドイツでは第2次世界大戦後の復興期にインフラ整備が行われ、日本と同様に老朽化が課題となっています。