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 日系企業が中国に設けた拠点に異変が起きている。これまで続いてきた人件費の高騰に加えて、急速な円安、すなわち人民元高が進んだことで、中国から撤退する日系企業が相次いでいるのだ。中国拠点を維持している日系企業でも、中国人従業員による不正に苦しむところは少なくない。
 一方で、市場としての中国の魅力は依然として大きく、一時期よりは落ち着いたとはいえ、今なお先進国がうらやむ高い経済成長率を誇っている。中国におけるビジネスは、以前に増して重要になっているのだ。ところが、中国の現状をよく知らない日系企業の社員は多く、トラブルや問題を抱える例が後を絶たない。

 日系企業の中国拠点が今、どのような事態に陥っているのか。実務系セミナー「ものづくり塾」「技術者塾」において、中国ビジネスに関する3つの講座(1)「日系メーカー初赴任者向け 中国ビジネス成功のポイント」〔2015年3月6日(金)〕、(2)「日系メーカーのための 中国現地法人における不正発覚と内部統制」〔2015年8月25日(火)〕、(3)「日系メーカーのための 中国現地法人の出口戦略と撤退実務」〔2015年8月26日(水)〕を持つ、キャストコンサルティング取締役・上海法人総経理の前川晃廣氏に聞く。(聞き手は近岡 裕)

──毎日、新聞やインターネットなどで中国の情報は入ってきますが、日本にいると中国の実態がはっきりとつかめません。ニュースでも一面しか捉えていないものが多い気がします。日系企業が中国拠点を運営する上で、今、困っていることは何でしょうか。

前川氏:まずは、人件費の高騰でしょう。工場のワーカー(作業者)で比較した場合、福利厚生を入れて日本では約25万円であるのに対し、中国では約8万円と日本の1/3程度まで迫ってきました。確かに、中国のワーカーの人件費は日本と比べるとまだ低いと言えるのですが、10年前は1/10でした。そこからみると3倍になっています。ものすごい上がり方です。特に、2008年のリーマン・ショック後にこの人件費の高騰が顕著になってきました。

 そして、円安、すなわち人民元高です。2011年秋に円高はピークで、1米ドル=76円をつけました。それが今(2015年2月末)では1米ドル=約120円。同じ時期に1人民元=約12円だったのが、今では1人民元=約20円となっています。私は中国で生活しているのですが、12円だった商品が20円になると随分高くなったなあと感じます。

──日本企業としては、中国における反日感情も気になります。その影響はないのですか。

前川氏:もちろん、反日感情は残っています。しかし、だからといって仕事がやりにくいということはないですね。それよりも、環境規制。中国系企業には甘いのに、外資系企業に対しては厳しくなりました。法律があるわけではないのに、環境に与える負荷が大きい業種の企業はここの工業団地に来るなとか、水質データであるCOD(化学的酸素消費量)をいくらまで下げろとかいったことを、外資系企業は特に厳しく言われるようになっています。

──「中国は世界の工場」と呼ばれていたのは、つい最近だったような気がします。それが今では、「こっちに来るな」とまで言われるようになるとは…。

前川氏:外資系企業に対する税金の優遇もほとんどなくなりましたよ。法人税率をみると、2007年末まで中国系企業に対しては33%であったのに対し、外資系企業は15%と半分以下で済みました。それが、2008年からは中国系企業も外資系企業も一律25%になりました。「法人税率が日本の1/3で済むんだ、安いな」と思って工場を造ったら、あるときから「はい、25%です」となったわけです。でも、増税ではなく、あくまでも優遇税制の廃止、というのが中国当局の見解ですが。日本の法人税率よりは低いとはいえ、期待していた日系企業としてはガックリくるでしょうね。