日本の“ものづくり”や技術力の強さを、世界的に生かし切れていない背景の一つには、「短期的な収益を重視した経営」という「経営と文化の壁」(日経ものづくり2015年1月号の調査「数字で見る現場・日本のものづくりの強さ」の結果から)があることは既に述べた。建設機械業界において世界2位、国内1位のコマツの場合は、この壁を乗り越えているように見える。

コマツの「グローバル販生オペレーションセンタ」
コマツの「グローバル販生オペレーションセンタ」
世界各地のデータを集約する。右端が「KOMTRAX」のモニター。

 例えば、同社は最近米General Electric(GE)社と業務提携し、資源の採掘、物流、発電、重機、無人トラックの運用効率を高めるためのサービスを開発している。鉱山の生産設備の稼働データ(いわゆるビッグデータ)を共同で分析して傾向を把握し、対策を立案する。人材育成の面でも、若手社員向け社内学校の運営、課長クラス・部長クラスの教育とサクセッションプラン(後継者育成計画)の連動など、短期的な収益を重視した経営からは出てこない施策が見られる。

 日本企業の“ものづくり”が、さらに世界に貢献するためには、「短期的な収益を重視した経営から、中長期的な視点で経営する」企業体質へのイノベーションが不可欠である。

1.中長期の収益を前提とした「ダントツ」商品の開発

 コマツ独自の「ダントツ商品」の開発は、素材から最終商品のサービスに至るまで、世界トップレベルの設計仕様条件(KES:コマツ・エンジニアリング・スタンダード)を追求し、その具現化に努力していることが挙げられる。同社には、創業の精神はじめ製造やサービス部門で活躍した人々の考えや行動様式をまとめた「コマツウェイ」という冊子がある。2005~2006年に、社長だった坂根正弘氏がプロジェクトチームを指揮してまとめ上げたものだ。

 この中の「品質と信頼性の追求」という項目には、「ダントツを狙うこと」と「素材から組み立てまで一気通貫で考えること」がある。「一気通貫」とは、“ものづくり”において「部分最適」ではなく「全体最適」を志向するという同社の価値観である。その対象は製造現場、販売、サービスに留まらず、協力会社や代理店を含めて「コマツの“ものづくり”活動と定義し」、その行動指針としているのだ。

 “ものづくり”を目先の品質管理やコスト削減に限定せず、広く捉えて成功している商品を挙げれば、「GPS(全地球測位システム)とICT機能標準装備の建設機械」「ハイブリッド油圧ショベル」「森林伐採機(ハーベスターに代表される優れもの)」「無人ダンプ」であり、それらの稼働状況を監視する「コムトラックス(KOMTRAX)」である。これらの商品開発プロジェクトを成功に導いたのは、社内外のリーダーやチームメンバーであり、筆者が“ものづくりイノベーター”と呼ぶ人々である

 次に、このような人材はどのように育成されているのか、探ってみよう。