春は異動の季節。栄転もあれば左遷もあるし、遠い地域への転勤もある。サラリーマンにとって、この時期はまさに悲喜こもごも、プロ野球で言うところのストーブリーグである。

 プロの野球選手も大変だが、サラリーマンの世界は、単に実力だけで決まるわけではない。贔屓(ひいき)にしてくれる役員や上司がこけても変わるし、何の意味もなく、振り回されることもある。

 中には、たまたま空きのポストができたから、などと言う出会いがしら的異動もある。理由がどうでも、会社の命令は絶対であるから逆らえないし、嫌な顔をしようものなら、それが尾を引いて後の出世に響くこともある。

 私はサラリーマンの経験はないが、それこそ、誰よりも多くの異動を見て来たと言っていい。クライアントのご担当や、その周辺の社員の方の異動を、ここまで40数年にわたって見て来たのである。

 目の前で起こる異動は、まさに人事ドラマ。表面は淡々と辞令を受け取り、慌ただしく異動先に赴くのだが、中には不本意な、いや、不本意どころか憤るほど意外な異動もある。

 それは、本人にとっては晴天の霹靂(せいてんのへきれき)、あるいは大事件とも言えようが、断わることのできない赤紙(あかがみ・旧日本軍の招集令状)だから仕方ない。異動は厄介なのだ。