「政策や規制と向き合う半導体事業」と題し、半導体メーカーが戦略を考える上で見逃せない要素になった政策や規制とどのように付き合っていったらよいのか、指針を抽出することを目的としたSCR大喜利。今回の回答者は、アーサー・D・リトルの三ツ谷翔太氏である。
アーサー・D・リトル(ジャパン) プリンシパル
【質問1の回答】ビルディングオートメーションなど欧米の省エネ関連業界
エネルギーや高齢化などの社会課題の解決に向けて、政策や規制ドリブンの市場創出は社会の観点からも、また企業にとっての事業機会としても重要である。しかし、結果的に中国パネルメーカーの躍進を招いた、ドイツの太陽光パネル市場でのフードインタリフ(FIT)の導入のように、当該国のプレイヤーにとっての機会創出につながらなかった事例も枚挙に暇がない。つまり、政策・規制ドリブンの新市場は、必ずしも仕掛けた国のプレイヤーがその恩恵にあずかることを確約するものではない。
その中で、仕掛けた側にとっての成長機会へとつながった例としては、ビルディングオートメーションやBEMSなどの省エネソリューション業界が挙げられるだろう。グローバルに広がりつつあるグリーンビル制度(グリーンビルの評価制度やその結果に応じた税制控除など)をテコに、省エネソリューション市場の形成が進み、そこでSiemens社やJohnson Control社などの欧米系プレイヤーが世界でのプレゼンスを高めている。
これらの企業は、単に規制によって新興国での省エネ市場創出の期を伺っていただけではない。新興国現地におけるグリーンビルディング関連の協議会などに積極的に関与し、目指すべき省エネの方向性やその評価基準など、制度設計に多大な影響を与えてきた。これは、高い省エネ水準が「オーバースペックとしてではなく、価値を払うべき対象」として評価される状況を生み出すことを目指した動きとも解釈できる。換言すれば、新市場創出への働き掛けだけではなく、競争ルールそのものへの働きかけであったと捉えるべきであろう。