「ソシオネクストのあしたはどっちだ」と題し、同社の勝機を探ることを目的としたSCR大喜利。今回の回答者は、IHSテクノロジーの大山聡氏である。

大山 聡(おおやま さとる)
IHSテクノロジー 主席アナリスト

1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。

【質問1】ズバリ、同社の事業に勝機を見出すことはできるのでしょうか?
【回答】勝機を見出す可能性はあるが、多くの必要条件を伴う

【質問2】同社は、どのような市場を対象にした、どのようなビジネスモデルでの事業を進めるべきでしょうか?
【回答】徹底的にASICにこだわることが重要

【質問3】同社の競争力を一層高めるためには、何が必要でしょうか?
【回答】オリジナルなIPを保有することで、他社との差別化を図る必要がある

【質問1の回答】勝機を見出す可能性はあるが、多くの必要条件を伴う

 富士通本社もパナソニック本社も、半導体事業を連結から外すことが重要であった点は否めない。その点においては2003年に日立製作所、三菱電機の双方の半導体事業が統合して設立されたルネサス テクノロジー(現ルネサス エレクトロニクス)と共通している。

 その後、親会社である日立製作所と三菱電機は順調に業績が回復したが、ルネサスはリストラを繰り返しながら苦戦を強いられており、勝機を見出したとは言い難い状況が続いている。ルネサスの主力製品はマイコン、ソシオネクストの主力製品はASICと相違点はあるものの、親会社の都合で半導体子会社の積極的な意思ではなく設立された合弁会社という共通点がある。このため同社は、ルネサスと同様の課題を抱えているはずだ。このままでは同社も苦戦を強いられる可能性が高いと言わざるを得ない。

 統合する前の富士通セミコンダクターのシステムLSI、およびパナソニックのシステムLSI、それぞれが単独ではなし得なかった技術やサービスとは何か。2社が統合したことで実現可能となる技術やサービスとは何か。それを社内で徹底的に議論することが重要である。顧客に対してもそれをアピールしていかねばならない。

 ルネサスの設立直後はその議論が不十分であった。新ブランドの立ち上げや商流の整理などに忙殺され、顧客から見ても新会社のプラスアルファが不明確だったという印象が残っている。ルネサスの売り上げは統合と共に徐々に減少し、追加リストラを余儀なくされた。2010年にNECエレクトロニクスと再統合してもその傾向は変わらず、減収とリストラを繰り返して現在に至る。これは顧客から見て統合後のルネサスに新しい魅力が感じられないことが主要因であり、それが減収とリストラという負の連鎖を引き起こしているのだ。

 主力製品がマイコンであろうとASICであろうと、新会社の魅力を顧客に十分に説明できなければ同様の「負の連鎖」を引き起こす危険性がある。逆に言えば、これまでは単独でなし得なかった、統合したからこそ実現可能になった技術やサービスを顧客にPRすることが「勝機を見出す」ための条件ではないだろうか。