3月2日、富士通セミコンダクターとパナソニックのシステムLSI事業の統合が完了し、日本政策投資銀行も出資して新会社「ソシオネクスト」として事業を開始した。システムLSIの設計・開発にフォーカスし、富士通とパナソニックの両グループの連結対象にはならない、独立したファブレス半導体としての船出である。全従業員数が2600人、国内に7カ所、海外に15カ所の事業所を持つ、国内のファブレス半導体メーカーとしては、かなり大規模な会社になる。

 しかし、現時点で同社の明るい未来を想像している人は少ない。まず、システムLSI事業は、日本の半導体産業が凋落した主因として挙げられている事業である。しかも、同社の強みは、一般に広く認知されているとは言えない。例えば、ルネサス エレクトロニクスは、よくも悪くも「マイコンの会社」「自動車用半導体が強い会社」というイメージがある。こうした分かりやすい看板が、同社には見えない。

 そして、富士通とパナソニックという組み合わせがどのような強みを生み出すのか、同社が強みとして挙げる映像、画像、光ネットワークの技術の先にシステムLSIの需要を押し上げるどのような市場が具体的にあるのか、今ひとつピンとこない。同社は新規株式公開(IPO)を目指していると言う。事業のあり方と強みの明快さは、今後重要になることだろう。

 とは言え、同社が何の勝算もなく事業を始めるとも思えない。富士通とパナソニックから引き継いだ、数多の開発案件でスキルを磨いた半導体設計部門と豊富な設計資産は、同社が強みとして挙げる分野で競争力を持っていることは確かだ。また、代表取締役会長に京セラをはじめとする数々の企業の経営者として特に新規事業の開拓で豊富な経験をもつ西口泰夫氏を、代表取締役社長兼COOに富士通で枠にとらわれない手腕で応用システムに根ざした半導体事業を指揮してきた井上あまね氏を配した、重厚で実務的な経営陣を戴いている。誰が見ても困難な状況にある同社が、どのように活路を拓いていくのか、興味は尽きない。

 今回のSCR大喜利では、「ソシオネクストのあしたはどっちだ」と題し、勝手ながら同社の勝機を探ることを目的とした。今回の回答者は、慶應義塾大学の田口 眞男氏である。

田口 眞男(たぐち まさお)
慶應義塾大学 特任教授
田口 眞男(たぐち まさお)
1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事、特に新型DRAMセルの開発でフィン型のキャパシタ、改良トレンチ型セルの開発など業界で先駆的な役割を果した。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。DDR DRAMのインターフェース標準仕様であるSSTLの推進者であり、命名者でもある。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授。

【質問1】ズバリ、同社の事業に勝機を見出すことはできるのでしょうか?
【回答】大規模SoCが見直されるタイミングが早く来れば勝機あり

【質問2】同社は、どのような市場を対象にした、どのようなビジネスモデルでの事業を進めるべきでしょうか?
【回答】半導体でのゼネコンモデル

【質問3】同社の競争力を一層高めるためには、何が必要でしょうか?
【回答】世界の最も安いファブの使用と知名度のアップ

【質問1の回答】大規模SoCが見直されるタイミングが早く来れば勝機あり

 今回のデリケートな話題には勝機とは何かから議論しないと答えを出しにくいが、大規模SoCまたは最先端テクノロジー品が一般化していくタイミングが早まれば、勝機があると思う。そこでまずソシオネクストの強みについて考えたい。

 これまでの半導体企業においては、コストダウンこそが金科玉条だったと言っても過言ではない。確かにコストの重要性は変わるべくもないが、成功している半導体会社を見ると「強みを発揮させる」ということが鍵になっているようだ。例えばコスト競争の象徴的存在でもあるNANDフラッシュメモリーですら現在のように微細でデリケートなセルになると、経験を積んだ会社しか製造できない。このことが参入障壁となり、その強みを発揮できる限られた企業が莫大な利益を得ている。アナログ系の半導体でも特に高い周波数でのAD変換器やDA変換器、スイッチング電源などでは、理論と経験の積み重ねを強みとするメーカーが優位にある。FPGAでは高速インターフェース技術やマイコンを取り込むといった高性能化と使い易さの改善に余念が無い海外サプライヤーの寡占状態である。では新生ソシオネクストがどのような強みで何をもって攻めるのかである。