先日掲載された「『iPhone』がもうかる本当の理由」という記事を読み、分業化の弊害について考えさせられました。この記事では、iPhoneを例に米Apple社が高収益である理由をプリベクト代表取締役の北山一真氏が解説しています。それによると、Apple社は製造をEMS企業に委託するファブレス化(製造の分離)によって利益を確保しているように見えますが、実際には最もお金が掛かる切削加工機やレーザー加工機は自社で投資し、固定費をうまくマネジメントすることで高収益を実現しているというのです。
固定費マネジメントに秀でているApple社は、投資した設備を使い倒すために、製品の使い勝手などを妨げない範囲で「もうかる設計」(プロフィタブル・デザイン)を徹底しています。例えば、iPhoneの世代が変わっても画面サイズがなかなか変わらなかったのは、そのことも理由の一つだと北山氏は推測しています。一方で、固定費マネジメントの意識が低い日本のメーカーは、画面サイズが異なるスマートフォンを多数生み出していました。
日本のメーカーの収益性が低い要因として、北山氏は「設計部門と原価部門がバラバラである」ことを挙げます。すなわち、分業化によって固定費マネジメントがおろそかになっているわけです。そして、同氏はもう一つ気になることを指摘しています。「1970~1980年代の日本の技術者は、今のApple社の技術者とそっくりのやり方で固定費マネジメントをしていた」というのです。
このフレーズを読んで、私は以前に書いたある記事を思い出しました。創造的なアイデアを生み出す「デザインシンキング」(あるいはイノベーティブシンキング)について、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の富田欣和氏にインタビューした記事「日本が無意識に実践していた創造的活動を、欧米は意識的に体系化している」です。
この記事において富田氏が指摘していたのは、「皆で協力して新しいものを生み出す」ということを日本の企業は1970~1980年代まではできていたのに、分業化によって現在はうまくできていないこと、そして欧米の企業がかつての日本のやり方を徹底的に研究し、デザインシンキングとして体系化してイノベーションにつなげる可能性を高めていることでした。固定費マネジメントとデザインシンキング、対象は全く異なりますが、日本の企業が半ば無意識的に実現していたことを分業化によって自ら捨て去り、一方で欧米の企業が貪欲に取り入れたという点では見事なまでに一致しています。
もちろん、複雑化した時代に1人あるいは1社でできることには限界があるので、分業化自体は今後も避けられません。問題は、分業化以前にやっていたことを、分業体制でどう実現するかということになるのでしょう。北山氏も富田氏も、決して「昔に戻れ」と言っているわけではありません。今の時代に合った固定費マネジメントなりデザインシンキングを確立しなければなりません。
結局のところ、分業化の弊害とは、直接担当している分野以外に頭を使わなくても何とかなってしまうことに尽きるのではないでしょうか。だから、その解決策は、分業体制の中でも互いに担当外の分野に目配りすることだと個人的には考えています。それが、仕組みで実現できることなのか、個人の資質に依存することなのか、非常に興味があります。