設備に投資しているなら、その固定費は使い倒さなければならない。Apple社はこの固定費マネジメントに秀でている。

 iPhoneは、2007年の初代から2011年の「iPhone 4S」まで画面サイズが全く変わらず3.5型で統一されてきた。そして、2012年の「iPhone 5」で初めて画面サイズが4型になった。ただし、幅の寸法は変えておらず、縦に伸ばしただけだった。画面の幅だけを見たら、7年も変更を加えていない。その他、ホームボタンのサイズや音量ボタンの位置なども同じままである。

 もちろん、そうした設計になっているのは、使い勝手や携帯性などによるところが大きいだろう。だが、高額な加工機に投資しているからこそ、設備/治具/技術をできるだけ変えずに済むような制約を設け、その中で付加価値を高めるための設計をしていることが分かる。これこそが、Apple社が莫大な利益をたたき出している秘訣である。

4年間で55機種も設計

 一方、ある日本のメーカー(以下、X社)を見てみよう。下の図は、X社が2011年以降に発売したスマートフォンの画面サイズのリストである。

スマートフォンの画面サイズ比較
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 これによれば、X社は2011~2014年の4年間で、何と55機種、19種類の画面サイズを設計している。そのうち半数を超える10種類の画面サイズが1機種にしか使われていない状況だった。

 本当に、これほど多様な画面サイズが必要だったのか? たった4年間で55機種も開発し、筐体のサイズもバラバラである必要があったのか? これでは、固定費マネジメントができるはずはなく、もうかる製品にはならないだろう。画面サイズの種類が際限なく増えたことについて、X社の技術者にも言い分はあると思う。しかし、固定費マネジメントの重要性に異存はないはずだ。