承前

 グローバル時代には、新興国から先進国まで幅広くカバーする製品展開をできることが勝者の条件だ。だが、従来の経営のやり方のままでは膨大な経営資源を必要とする。そこで、ドイツVolkswagen社(以下、VW)が2007年から本格的に取り組んでいる「Modular Toolkit Strategy」が2010年ごろからにわかに脚光を浴び始めた(第19回参照)。さらに、トヨタ自動車は「Toyota New Global Architecture」(TNGA)を、日産自動車は「日産CMF」(CMFはCommon Module Familyの略)を打ち出した。

 トヨタ自動車および日産自動車の発表を聞くと、Modular Toolkit Strategyと異なるように思えるが、狙いは同じ「モジュール化」だと考えている。自動車は「擦り合わせ型製品の典型」といわれるが、擦り合わせとは個別モデル用に個別最適の部品を生む設計のやり方であり、すなわち個別の製造設備を生むことにつながる。私は1990年ごろから、年間1億台も生産される自動車が擦り合わせ型製品のままでは地球環境が持たないと考え、自動車を含むあらゆる製品の全体最適設計手法を研究してきた。それがモジュラーデザインであり、いよいよ自動車でもモジュール化時代が到来した。

トヨタ自動車「TNGA」の本質

 トヨタ自動車は2015年3月26日にTNGAの進捗を発表した。しかし、発表内容が製品革新、部品革新、レイアウト革新、プラットフォーム革新、ヒップポイント高さ変動対応と多岐にわたっているので、逆に捉えどころがなくなり、メディア各社から筆者に問い合わせが相次いでいる(米Reutersの記事を参照)。そこで、TNGAについて以下に解説する。

 先日の発表でトヨタ自動車がTNGAについて明らかにした内容の2/3は、製品革新/部品革新に関することだった。プラットフォームについても“もっといいクルマづくり”のために低ボンネットを実現しつつ、衝突性や振動を改善し、車体を軽量化する新構造についての説明があった。