2015年2月に開催された半導体のオリンピックとも呼ばれるISSCC(International Solid-State Circuits Conference)では、そのような新しいコンピューティング技術がいくつか紹介されました。技術の呼び方は各社各様で、Samsungは「In-Storage Computing」、Googleは「Near-Data Computing」、Marvellは「FLC(Final Level Cache)」、IBMは「Data Centric Computing」などと呼んでいます。

 これらの技術に共通する点は、膨大なデータをリアルタイムに扱うために、データを記憶する高速メモリの近くでデータの処理をすること。In-Storage Computingはストレージの中でアプリケーションを動かし、FLC(Final Level Cache)はメインメモリのバスにSSDを接続する。両者は一見、正反対の技術に見えますが、データ処理とメモリを近づける、という意味では共通しています。

 新しいアーキテクチャに取り組んでいる企業は、半導体メモリメーカー(Samsung)、ITサービス(Google)、プロセッサメーカー(Marvell)、ITシステム(IBM)と様々です。いわば異種格闘技戦になっていることが良くわかります。

 このように業種をまたいで競争になっているのは、ビッグデータ、IoTなどの新しい サービスが生まれたタイミングと、SSD、ストレージ・クラス・メモリなどの新しいデバイスが成長してきたタイミングが偶然にも一致したからでしょう。

 デバイスからソフト、サービスまでの最適化が必要になってくると、様々なスキルを 持った異分野の専門家を自社に抱える体力のある企業が生き残ることになるでしょう。就活の話に戻すと、こうした技術の変化を見通すことも、生き残る企業を予測することもほとんど不可能です。しかし、必要とされる技術や人材は、さほど変わらない。事実、Googleの講演者も専門は半導体の回路設計でした。

 ISSCCという半導体の学会でGoogleが講演すること自体が時代の変化を象徴してい ます。Googleの講演後の質疑応答では、多くの質問が出ました。技術的な質問に加え、半導体技術者から次のような質問もありました。

「必要な技術はわかった。でも、それを開発したところで半導体メーカーは儲からなくて、Googleのようなサービス企業が利益の多くを持っていってしまうのではないか? 我々半導体メーカーはどうやって食べていけば良いのだ?」

それに対する、Google技術者の答えが秀逸でした。

「確かにそうかもしれない。それならば、技術者はサービス企業に転職すれば良いのです。自分も以前は半導体メーカーでCPUの回路設計をしていて、Googleに転職したのです」。

 産業の移り変わりは仕方ないことで、予測することも難しい。でもコアの技術を持つ エンジニアは世界のどこかで必ず必要とされる。1つの企業、産業にこだわるよりは自分を必要としてくれる場所にフレキシブルに移ればよい。そう考えれば仕事選びの際も多少は気が楽になるのではないでしょうか。