中国でスマートフォン向け高周波部品の市場を獲得するために何が重要なのか、問われた村田製作所の村田恒夫社長は、このように語っている。「まず、MediaTek社の参照設計に、自社製品が採用されることがとても重要です」。
MediaTek社が、スマートフォン向けASSPで他を圧倒する存在感を持つようになった。今では自社が行うASSP事業のみならず、他社が扱うさまざまな部品の売れ行きにも大きな影響を及ぼしている。日経エレクトロニクスでも、2015年1月5日号に、「急伸するMediaTekの参照設計に入り込め スマホ向け部品商戦の要諦」と題して、こうした動きを報じる記事を掲載した。
これまでにも同社は、DVDプレーヤ向けや携帯電話の山塞機向けのASSPの供給で大きな実績を挙げてきた。参照設計を提供することで、量産可能な製品を短期間で開発できるようにしたことが、成功の要因として挙げられている。ただし、これらの市場でASSPを供給するメーカーは多く、同社が勝ち抜けたプラスアルファの要因もありそうだ。そして、携帯電話機のプラットフォーマーとして、Qualcomm社に競り勝っているという事実は、こうした立場に座ることに不慣れな日本のメーカーには、学ぶべきことが多いように思える。
今回のSCR大喜利では、「MediaTekの強さの源泉とその波及効果」と題して、MediaTek社の強みの源泉を考察し、そこから学べることを抽出することを目的とした。最初の回答者は、某半導体メーカーの清水洋治氏である。
清水洋治(しみず ひろはる)
某半導体メーカー
【質問1の回答】ターンキーで活用できるプラットフォームの市場性とその構築手法
MediaTek社の強みは、一貫したターンキースタイルにある。ハードウェア的なチップセットも完璧ならば、そこに搭載されるソフトウェア(ミドルウェア)も完璧。MediaTek社の設計図通りに開発すれば、スマートフォンなどの最終製品が作れることが最大の強みである。
チップセットを強化するために、M&Aも積極的に行っている。忘れられがちだが米Analog Devices社のベースバンド事業の買収が、MediaTek社をメジャーに押し上げたターニングポイントになっていると思う。以前は中国やアジアを中心とした携帯電話向けのチップベンダーに過ぎなかったとも言えるが、欧米老舗のベースバンド事業を買収することで、メジャー入りを目指す意思を感じ取ることができた。NTTドコモからLTEベースバンドのライセンスを取得したことも同様である。
MediaTek社は、何から何まで自前主義を貫く会社ではなく、買収や導入、協業などを通じて常にターンキー、プラットフォームを作り出すことに主眼を置いている。ここが最大の特徴であると思う。2015年のMediaTekの大きな取り組みは、CDMA方式のベースバンドを取り入れること。枯れた技術ではあるが、今まで対応できていなかった技術を取り入れることでターンキー・プラットフォームのカバー領域は著しく拡大する。
最大人口地域でのパフォーマンスを考えて、足りない技術の駒を揃えていく進め方は学ぶべき点が多い。