「東芝のメモリー事業は、なぜ生き残りなぜ好調なのか」と題し、同社が勝ち残り、現在も強くあり続けている要因を探求し、これからを考える知恵を抽出しているSCR大喜利。今回の回答者は、アーサー・D・リトルの三ツ谷 翔太氏である。
アーサー・D・リトル(ジャパン) マネジャー
【質問1の回答】DRAMにおける「事業の型」を活かせるNAND型フラッシュへの注力
過去、DRAMにおける業界構造が厳しくなる中で、日系半導体メーカー各社は新たな方向性への転換が求められた。その結果、多くの企業がシステムLSIへと傾注し始めた一方で、東芝は(システムLSIも手掛けつつ)NAND型フラッシュメモリーに軸足を移しており、この事業方針が結果的に大きな分水嶺となった。
当時のシステムLSIは、確かに市場性もあり、微細化などの技術資産が活用できる領域ではあった。また、社内にエンド製品部門を持つ日系勢にとっては、社内での活用も見えやすいといった目算もあったのだろう。しかし、DRAM後の主戦場と見据えたシステムLSIでは、求められる勝ちパターンがDRAMと大きく異なっていた。端的には、DRAMがデバイスプロセスの作り込みと、継続的な集中投資が重要になる事業であったのに対し、システムLSIはIPを含めたシステム全体の設計思想が重要となる事業であり、その転換は容易ではなかった。
一方、東芝が選んだNAND型フラッシュは、同社が開発を先導できたというだけではなく、それは本質的にはDRAMと同じ勝ちパターンに立脚可能な事業だった。その結果、東芝らしい戦い方を継続できたというのが最大のポイントだろう。さらに、その勝ちパターンは経営トップの大胆な意思決定が求められるものであり、これが大型投資や大型M&Aなどをトップダウンに実行できる同社の経営体質、企業としてのDNAにフィットしていたとも言える。
このように市場・技術の表層的な視点からだけでなく、自社の勝ちパターンやそれを支える経営基盤の視点を踏まえて、それが最大限に発揮できる事業ドメインを見極められたこと、そして、そこにトップの意思を持って継続投資し続けたことが同社の最大の成因ではないか。