「日本の産業競争力をこれからも高い水準で維持していくこと。それは、さまざまな資質を持った人材が適所で活躍し、同時に優秀な後継をたくさん育成できる仕組みが構築できるかに掛かっています」――。

東京大学 大学院理学系研究科長 ICCPT研究リーダー 五神真 氏

 2015年4月1日に東京大学の第30代総長に就任する五神 真氏はそう語る。同氏は、大学の仕組みを変え、そこを「知の協創の場」とする構想を持っている。産業界が抱える困難な課題の解決に、大学と企業が一緒に取り組む「本気の産学連携」を進める場だ。同氏が研究リーダーを務める、文部科学省の研究開発支援プログラム「COI STREAM」のテーマのひとつ「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)」は、その先駆けとなるプロジェクトである。五神氏に、日本が持つべき人材の活用と育成の仕組みの姿と、その実現を目指す中でのICCPTの位置付けを聞いた。

――世界の中での日本の産業競争力を不安視する声が聞かれるようになりました。

五神 日本の総人口は2004年をピークに減少に転じています。また一人当たりのGDPも後退しています。大学の国際ランキングもなかなか上がりません。こうした指標を見ると、確かに国力低下が心配になります。

 ただし冷静に考えれば、日本の国際的な地位は、依然として高いと断言できます。このような狭い国土に、国際的な企業が林立している国は、他に見当たりません。戦後の高度経済成長期、日本は国際的に高い地位に上り詰めました。今もその時蓄積した科学技術などでの優位性が、資産としてたくさん残っています。

 重要なことは、将来も尊重される国であり続けるため、これから何をしていくかなのです。日本の特性を生かして国際社会に貢献していくために、何を基とすればよいのか。それは「人」です。いかに優れた科学技術があっても、それを使いこなす優秀な「人」がいなければ、これからの社会が抱える課題を解決することはできません。日本が過去に蓄積した資産のうち、優秀な人材こそが、未来を拓く最大の資産だと思います。