本稿では、市場拡大が期待されるV2X(車車間通信および路車間通信)市場の動向を解説する。V2Xは自動車と自動車(V2V)、または自動車と信号機や道路標識などのインフラ(V2I)がクラウドを通さず直接に相互通信し、効率的な交通システムの構築と自動車事故の未然防止を目的とする仕組みである(図1)。長期的な観点からも自動運転につながる重要な技術と位置づけられており、注目度は高い。

図1●V2Xシステムの概要
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 なお、本稿においてV2XはIEEE802.11.p(WAVE)技術をベースにした狭義のV2Xを指す。日本のETC2.0はV2Iの一種ではあるが、IEEE802.11.pをベースにしていないため、ここでは取り上げない。

V2Xのシステム構成とその仕組み

 図2に示すように、V2Xには自動車に搭載される車載機(OBU)と交差点などに設置される路側機(RSU)がある。車載機には5.9GHz(日本では760MHz)のRFや現在の位置を検知するGPS、セキュリティーとその性能を向上させるアクセラレーター、データを処理するアプリケーションプロセッサーなどが搭載される。

図2●V2Xシステムの構成図
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 路側機も車載機と似た構成を取るが、車載機よりもセキュリティーを強化している。加えて、処理能力の高いプロセッサーが必要な点やメモリー容量が大きい点、信号機などの交差点にある機器とのインターフェースが必要な点などが異なる。

 V2Xの運用の概要は次の通りである。まず、V2Vでは車載機は現在の位置情報や速度、ブレーキの状況などを1秒間に数十回以上送信する。その信号を周りにいる自動車の車載機がクラウドを通さず直接受信する。直前の自動車に搭載された車載機が急ブレーキの信号を発信した場合には、その直後にいる自動車の車載機がその信号を瞬時に受け取り、その情報を分析する。CANやEthernetなどの車内インターフェースを通して、警報を鳴らしたり、警告サインを車載ディスプレーに表示したりする。

 対して、V2Iでは交差点に設置された路側機がその交差点を通過する自動車に対して信号を送る。V2Iのアプリケーションの一つであるGreen Lights Optimized Speed Advisoryの場合は、路側機が信号の情報を取得し、実際に信号が赤に変わるまでの時間などのデータを周辺の自動車に送信する。そのメッセージを受け取った車載機は、信号を順調に通過するための速度を表示し、燃費改善などにつなげる。米国や欧州では、V2Xのアプリケーションの標準化が進められており、数十種類のアプリケーションが想定されている。