山本 「そんなにぬるい感じでしたっけ?」と思うんです。もうちょっと、みなさんハキハキと考えて、新興国に行けと言われたら明日にでも飛んでいっちゃう感じではなかったでしたっけ? どこかの大学に新技術の情報があったら即アポで訪問しちゃう人たちだったはずなのにねと。

川口 企業が人材をリクルートする際に最も大変で、採用後にトレーニングできないことが一つあるんです。それは「好奇心」ですね。だから、面接試験で一番見抜かなければならないのは、「この人は本当に好奇心がある人なのか」ということ。もともと好奇心がない人は、どんなに叩いても出てこない。インテリジェントな仕事では1人で千人力のことができるわけだから、そういう意味ではものすごく乱暴な言い方をすると、1000人に1人の好奇心がある人をどれだけ捕まえられるかに企業の存亡が懸かっています。好奇心資本主義のような感じですよ。

山本 ああ、それは分かります。ありますよね。

山本 一郎(やまもと・いちろう)
1973年東京生まれ。1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際電気(現・日立国際電気)入社後、調査会社、外資系証券会社調査委託などを経て、2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場、各種統計処理や分析業務に精通。また、対日投資向けコンサルティング、投資ファンドを設立。著書に『ネットビジネスの終わり (Voice select)』(PHP研究所)、『投資情報のカラクリ』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。日本随一の時事・経済系ブロガーとしても知られ、産経デジタル『iRONNA』、ヤフーニュース『無縫地帯』、扶桑社『ハーバービジネスオンライン』など多くのウェブ媒体に時事解説を寄稿しており、有料メルマガ『人間迷路』を発行。2013年都市型高齢化検証プロジェクト『首都圏2030』を立ち上げ、現在東京大学客員研究員も務める。三児の父。(写真:加藤 康)
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川口 世の中では身の回りの力仕事に関する省力化がどんどん進んでいて、技術で解決していくことがどんどんなくなってしまった。最後の省力が電気自動車で、さらに進んで自動運転車やパワードスーツだと。楽をしたいという要望に応える取り組みですね。これとは別に「長生きしたい」という欲に向けた取り組みの方向性もあって、それはメカトロよりはライフサイエンスが担っていく領域でしょう。

 もう一つ、人間には「コミュニケーションしたい」という欲求があります。相手に対する興味だったり、世界はどういう仕組みでできているんだろうと思ったりすることですね。これが先ほどの好奇心の話とつながるんです。

 例えば、山本さんの好奇心は、専門知識とは全然違うレイヤーでメタレベルに何かを理解して、そのアナロジーから何かを類推することでしょう? つまり、多くのアナロジーの引き出しを持っていて、何かを見たときに「これはあれと同じことが起きている」と感じる能力です。

 全く異なる話題から何かを類推できるかどうかがイノベーションの大きな部分で、ほかの人と同じものを見たときに「あっ」と思えるかどうか。例えば、「このアナロジーを、このデバイスの開発に使おう」と。もちろん、デバイス開発の場合は、ある程度の専門性の土俵が必要でしょう。「僕は何でもやります」というのは、「何もできません」ということとほとんど同じだから。

山本 そうじゃないといけないですよね。

川口 このアナロジージャンプの作業が最も高い付加価値を生み出すインテリジェントな仕事で、日本はそのステージで戦わなければならない国になっています。これだけ高給をもらって、平均年齢が40代後半という世界でも最も年寄りの国ですから。