山本 「そんなにぬるい感じでしたっけ?」と思うんです。もうちょっと、みなさんハキハキと考えて、新興国に行けと言われたら明日にでも飛んでいっちゃう感じではなかったでしたっけ? どこかの大学に新技術の情報があったら即アポで訪問しちゃう人たちだったはずなのにねと。
川口 企業が人材をリクルートする際に最も大変で、採用後にトレーニングできないことが一つあるんです。それは「好奇心」ですね。だから、面接試験で一番見抜かなければならないのは、「この人は本当に好奇心がある人なのか」ということ。もともと好奇心がない人は、どんなに叩いても出てこない。インテリジェントな仕事では1人で千人力のことができるわけだから、そういう意味ではものすごく乱暴な言い方をすると、1000人に1人の好奇心がある人をどれだけ捕まえられるかに企業の存亡が懸かっています。好奇心資本主義のような感じですよ。
山本 ああ、それは分かります。ありますよね。
川口 世の中では身の回りの力仕事に関する省力化がどんどん進んでいて、技術で解決していくことがどんどんなくなってしまった。最後の省力が電気自動車で、さらに進んで自動運転車やパワードスーツだと。楽をしたいという要望に応える取り組みですね。これとは別に「長生きしたい」という欲に向けた取り組みの方向性もあって、それはメカトロよりはライフサイエンスが担っていく領域でしょう。
もう一つ、人間には「コミュニケーションしたい」という欲求があります。相手に対する興味だったり、世界はどういう仕組みでできているんだろうと思ったりすることですね。これが先ほどの好奇心の話とつながるんです。
例えば、山本さんの好奇心は、専門知識とは全然違うレイヤーでメタレベルに何かを理解して、そのアナロジーから何かを類推することでしょう? つまり、多くのアナロジーの引き出しを持っていて、何かを見たときに「これはあれと同じことが起きている」と感じる能力です。
全く異なる話題から何かを類推できるかどうかがイノベーションの大きな部分で、ほかの人と同じものを見たときに「あっ」と思えるかどうか。例えば、「このアナロジーを、このデバイスの開発に使おう」と。もちろん、デバイス開発の場合は、ある程度の専門性の土俵が必要でしょう。「僕は何でもやります」というのは、「何もできません」ということとほとんど同じだから。
山本 そうじゃないといけないですよね。
川口 このアナロジージャンプの作業が最も高い付加価値を生み出すインテリジェントな仕事で、日本はそのステージで戦わなければならない国になっています。これだけ高給をもらって、平均年齢が40代後半という世界でも最も年寄りの国ですから。