本ブログは「Wireless・のおと編集注1)」と題していますが、「Wireless」というのも考えてみれば不思議な言葉です。今回はこの「Wireless」という言葉を出発点として、メディアとコミュニケーションについての小話を何度かにわたってお届けしようと思います。

編集注1)転載元の原題です。

 今日「Wireless(無線)」という言葉は「媒体(Medium)として電波を用いた非接触通信方式」と解釈されますが、考えてみれば「無線」という言葉に「電波を使う」という意味は含まれていません。実際TVやエアコンの無線リモコンの多くは電波ならぬ赤外線を使っていますし、ごく初期の無線TVリモコンには超音波を使ったものさえありました。「無線」という字面は「線が無い(Wire Less)」ことを示しているだけであり、これはつまり「線を使用する通信方式」=「有線通信」の対語です。

 意外なようですが、無線通信の歴史は有線通信よりずっと古くに遡ります。たとえば会話は大気を媒体とした音声信号を使った無線通信ですし、身振り手振りは可視光を使った無線通信です。手紙は紙を媒体として何らかのキャリア(手渡し、伝書鳩、矢文など)で伝達する、やっぱり無線通信です。あえて「有線」といえば紐に手紙をぶら下げて渡すとか糸電話くらいのものです。

 「有線・無線」を論じる以前に、まず電気信号を用いた通信とそれ以外の通信方式に分けた方が良いのでしょう。そして非電気通信のほとんどは「線」を媒体に使わない(可視光、紙、大気)ので、あえて言えば「無線式」となり、電気通信では電線を用いる「有線方式」と電波(自由空間伝達電磁波)を用いる「無線方式」に分かれる、ということになります。