技術の成熟期に入ったICT・エレクトロニクス業界では従来のトップダウンで演繹的な技術開発手法から、ボトムアップで帰納的な手法の導入に向かいつつある。それに伴って、人体や生命科学をはじめとする異分野との境界領域に新たな市場が広がっていく。2人の奇才の目には、どんな未来が映っているのか。
今井 今回の対談では、川口さんと山本さんがレポートの中で描いた産業や社会の未来図を前提に、エレクトロニクス関連の大手企業や、いわゆる「メーカーズ」のスタートアップ企業などの今後を占っていただきたいと思っているのですが。
山本 ちなみに「メーカーズ」って、どういう概念で捉えているんでしょうか。どちらかというとスタートアップ企業の中でもハードウエア領域の方向、つまり、今までスタートアップと言えばアプリ(アプリケーション・ソフトウエア)がメインだったけれども、道具の方に寄ってきたというイメージでしょうかね。
でも、メーカーズと呼ばれている人たちと話していると、彼らの中では「メーカーとは何か」といった定義面を落とし込んでいなかったりするんです。私たちがイメージしている単純な製造業としての「メーカー」とは、彼らのニュアンスがだいぶ違うんですよ。
今井 それは、どういう感じに違うんでしょう?
山本 古い人間からすると、従来型のメーカーがファブレス企業と、モノをつくることに特化したファウンドリ企業に分解されて、その中で新しい生態系が生まれているイメージじゃないですか。でも、メーカーズの彼らからするとモノをつくるというよりも「プロトタイピング」にフォーカスしていて、モノに落とし込むことそのものよりも、それが実現するファンクション(機能)に特化している気がします。
川口 モノをつくるための「ツール」や「ライブラリ」みたいなものがサクサクと存在していて、これまでソフトウエア志向のバーチャルな概念で開発することが常識だった人たちが、リアルなモノをつくっていいんだというイメージになっているよね。
モノをつくる際にこれまであったしがらみや常識は全然関係なくなっていて、「ソフトウエアをつくるようなセンスの人たちが、たまたまハードウエアをつくっている」というノリは、従来の常識に捉われている集団から見るとすごく違和感があります。
今井 私のイメージだと、メーカーズの人たちはプロシューマー的というか。そういう感じかなと。