品物が売れずに、私が売れた

久保田氏

「ミスターモニタ」の出勤時間は、午前5時と早い。

 奥さんの手づくりの朝食弁当を持参して、東京都調布市の自宅から自転車に乗って10分ほどの距離のところにある会社、K&KJAPAN(株)の事務所に入る。

 早朝の時間は依頼された著作の執筆にあてることも多い。

 これまで『生体情報モニタ開発史―考証・評伝と未来像』(真興交易医書出版部)、『電気システムとしての人体―からだから電気がでる不思議』(講談社ブルーバックス)、『いのちを救う先端技術―医療機器はどこまで進化したのか』(PHP新書)など多数の著書があるが、久保田さんの著書は、他の図書ではなかなか得られない特徴を備えている。

 それは、著作のなかの文章が、国立国語研究所から正しい日本語の使い方を示す模範として例示されたり、大学入試の国語の試験問題に何回か引用されたりしていることだ。文章を生業とする作家や評論家の記述ではなく、大学で電気工学を専攻し、生体情報モニタの研究開発に携わってきた人の文章が、国語的な視点から高い評価を得るというのも珍しい。

 珍しいといえば、久保田さんがスイスの医療機器メーカーへ転職したときも、「ミスター監視装置、流出」といった見出しで、朝日新聞(1988年4月24日付)が顔写真入りで報じている。いまでは格別のことではない開発技術者の欧米企業への転出が、当時としては希少であり、ニュースバリューを持つと判断されたからだろう。

 記事はつぎのように伝えている。

 医療機器の大手、日本光電工業監視装置事業部副部長だった久保田博南(ひろなみ)さん(47)がこの春、スイスの同業、コントロンインスツルメンツ日本法人の医療機器部クリティカルケアマーケティング担当部長に転身、「ミスター監視装置」の頭脳流出、と話題になっている。