これまでHDDの障害の原因として、ガスやヘッドの加工精度、振動を紹介してきた。今回は、HDDに故障を引き起こす、これら以外の原因について紹介しよう。

流体動圧軸受けの不良が原因に

最初に紹介する事例は、流体動圧軸受(FDB:fluid dynamic bearing)で発生する問題だ。FDB-SPMは、軸と軸受けの間に流体(オイル)を満たしてあるスピンドルモーター(SPM)で、FDBはモーターが回転すると、オイルに流れが発生する(図1、写真1、写真2)。軸受け内面には深さ0.01mm程度のV字型の溝が彫ってあり、流体はこの溝に沿って流れ込む。V字の部分に圧力が発生し、この圧力で軸を支える仕組みである。

図1 FDB-SPM断面概略図
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写真1 SPM部
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写真2 SPM金属製スリーブ(分解)
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写真3 樹脂製SPMの外観
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写真4 樹脂製SPMのスリーブ
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写真5 樹脂製SPMのスリーブ断面
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写真6 媒体面の液状付着物
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 HDDのスピンドルモーターにFDBが採用され始めた初期のころは、稼働後数年で故障する事例が多数見受けられた。それは次のような原因だった。FDBのオイルを大気雰囲気でスピンドルモーター内に充填すると、空気の微小気泡や水分などが混入する。長時間稼働すると、軸受けの溝に沿ってオイルが加圧される部分と摩擦熱の膨張によって減圧される部分が現れ、キャビテーション(気泡)が発生しモーターが空回りする。この結果、ディスクがうまく回らないという回転異常が発生した。一旦停止し、再稼働させるとしばらくは稼働するが、回転異常が再現してしまい、最終的には全く回転しなくなってしまう。この他、FDBオイルの充填量不足により8000~10000時間でモーターの軸と軸受けが接触し、摩耗によってモーターが故障するという現象も見受けられた。

最近のFDBは製造時にオイルを真空環境下でスピンドルモーター内へ充填しているため、上記の様な、モーターが空回りする現象はなくなった。ただし、金属製のハウジング(写真4)の他に、樹脂製のハウジング(写真3、4、5)を搭載する機種が増えて来た。樹脂製ハウジングでは隙間からオイル漏れが発生する場合がある。オイルがFDBから漏れ出すと、媒体面上に拡散し、HDD性能低下やエラーを引き起こす(写真6、図2)。

図2 フーリエ変換型赤外分光 (FTIR)による組成分析
写真6の液状付着物を採取し、解析した。SPMのオイルが漏れだしていることが分かった。
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こうした問題に遭遇しないためには、品質試験によるオイル漏れ調査、分解によるFDB構造解析が必要である。また、HDDのトップカバー側を上に向けるように設置した方が良い。トップカバー側を下に向けると、スピンドルシャフト部が下に向くので、そこからオイルが垂れてくる可能性があるためだ。